辛口コラム  今さらながらの大学教育事情


第149回  今さらながらの大学教育事情

名門の京都大学が授業で学生に「社会常識」を教えることになったようです。
ついに日本の大学教育はここまで堕落したのかと、
ある意味では象徴的でもあります。

京大は新入生を対象にしている初年次教育で
「薬物はいけない」「交通マナー等の法令順守」等の「社会常識」を
2010年度から教える方針を固めたという。

社会常識は家庭や小中の基礎教育、高校等の教育を通して身につけ、
大学では専門分野の学力向上のために勉学に励むものと思っていたので、
「大学でこれから基礎教育?」と、考え込んでしまいました。

わたしが疑問を覚えたように京大の教師陣からも
「学生はもう大人。そこまでやる必要はない」との意見が多数派だったとか。
それでも危機感には勝てなかったようです。

新聞記事によると、
京大は数年前から向学の心構えなどを教える初年次教育を実施していたが、
学習意欲のない学生が目立つようになったうえ、
二人の学生が大麻、覚せい剤を所持したとして逮捕された。
このため大学側は「人間としての基礎的な教育」に重点を移し、
全学共通カリキュラムとすることを決定したという。

同校副学長も
「法令順守などは当然のことで、あえて大学で教えるかどうかは悩ましいところ・・・」と、
胸中は複雑のようです。

とても情けない話ですが、これが今の日本の大学生の実態のようです。
自由の学風、自学自習の伝統で知られた名門大学がその冠をかなぐり捨てて
実質的な教育を施そうとする姿勢を評価すべきなのかもしれませんが、
やはり情けないと思ってしまいます。

小中学生に教えるような自転車の乗り方のマナーまでを、
今さらながら教え込まなければならない教師の苦痛を思うと、
同情さえ覚えます。

最近の若者の知能やモラルの程度が
ここまで落ちていたのかとショックを受ける一方で、
若者の堕落は大人の知能やモラルの程度をそのまま受け継いだ結果ととらえると、
責任も覚えます。

親が家庭で子どもを躾ける責務を放棄して以来、
その結果は当然のごとく子どもに反映され、
大学生に「社会常識」の基礎を教えるという今に至ったのだから。

<鉄は熱いうちに打て>は、子どもの教育の基本ともいえる諺ですが、
すでに鉄は冷え切ってしまっています。
その時期にスタートする基礎教育の成果に疑問もありますが、
それでもやらざるを得ない危機的状況に陥っている日本の現状であるようです。

青少年に対する教育をさらなる危機に陥らせないためにも、
家庭での子どもの躾や教育の徹底、教育現場での教育内容の見直し、
教員の質の向上等、学校教育のあり方や改革も当然必要になります。

子ども手当てのような金銭面でのサポートも大切ですが、
教育を施す環境にも目配りをしなければ、
せっかくの子ども手当ても<仏作って魂入れず>になってしまいます。

子どもの成長は精神が身丈に伴ったものでなくてはなりません。
昨今の大学生は外見は大人でもその精神は
今さらながら社会常識を教えなければならない未熟なものだと、
大人たちは自分たちの責任としてしっかり認識するべきかもしれません。

これ以上の堕落を防ぐためにも家庭、社会、学校が一丸となり、
子どもたちをしっかり見守り教育することの大切さをあらためて感じました。



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