第145回 好奇心の先に、ケチくさい根性

わたしの日常は、毎日が日曜日。
しかも、家事の他にはするべきことが無い。
自主管理に乏しい性格の人にとって、この状況は最悪である。

毎日を無為に過ごしている身でも、唯一規則正しい習慣がある。
夕暮れ近くになると、近くの小川の河川敷や、広大な敷地の公園に出かける。
人はこの状態を散歩と称するようであるが、なるほど散歩には違いない。
生活態度と同様にだらしなく、あっちへブラリこっちへブラリと
散漫に歩いているのだから、これこそ由緒正しいお散歩である。

当人は運動不足の解消を願い、ひたすら歩きたいと願っているが、
好奇心のカタマリが家を1歩出ると、周囲からの誘惑が多すぎてそうもいかない。

一番の元凶はノラネコちゃんの存在である。
勢いをつけて調子よく歩を進めていると、住宅街の家の塀の上で丸くなっていたり、
駐車場の車の下から覗いていたりで、
その都度かなりの時間をネコチャンと過ごすことになる。

河川敷や公園にはゴロゴロ住みついているから、
一日につき3時間、時には4時間もお散歩に時間をかけても、
一向に足腰が鍛えられない。

それを実感したのは1ヶ月間のイタリア旅行である。
ドライブをしながら国中の観光スポットや、そうでない場所へも立ち寄ったが、
観光は車から下り、大抵は1キロか2キロくらいのエリアにあり、
時には3キロ4キロと足を延ばす。
それも石畳の坂道が断然多い。

それを1ケ月間続けて帰国したら、だれ切っていた脚は別人のように固く引き締まり、
強靭な筋肉質の素晴らしい芸術品(?)のように生まれ変わっていた。
石畳の急な坂道や、塔や丘の上にある建物へのアプローチを
連日のようにこなした成果である。

あまりの変りように感激して、夫に感想を漏らした。

「ニンゲンの体って正直ね。家でも毎日同じ距離を散歩しているのに
 一向に鍛えられなくて、イタリアの石畳や坂道にしごかれると、
 こんなにも違うものなのかしら」

「当ったり前。ニンゲンの精神も同じだ。鍛え方が足りんと、ナマクラは治らん」
「あら、あたしになにか関係あるの?」

昨日はその散歩で妙な光景に出会った。

わたしが家を出るのは大抵が夕暮れ時で、
あちこちでネコチャンに引っかかっていると、
わずか10分ばかりの公園へ着くころにはすでに陽は落ちて薄暗くなっている。
さらに広大な公園を周遊しているうちに真っ暗になってしまう。

公園で大きなスーパーの袋を両手に提げている中年女性とすれ違った。
彼女が目指している方向には広大な敷地が広がり、
それを横切って反対側の道路へ出るには1キロ以上はある。

公園の種族は、犬の散歩かジョギングやウオーキング、
ブラブラ歩きの散歩と相場が決まっているから、
暗い公園でスーパーの大きな袋を提げて歩いていると、なにか気になる。

好奇心のカタマリらしく、すれ違ってから振り返り、女性の姿を見送った。
道の真ん中を歩いていた彼女が急に左に駆け寄った。
彼女が駆け寄った場所に、大きな分別ゴミ箱があった。
市が設置している、ニンゲンが3人は入れるほどのものである。
彼女はためらいもなく大きな袋をその中にブチ込んだ。
わざわざ公園までゴミを捨てに来るからには、中身はよほど都合の悪いものなのか。
ミステリーばりのさらなる好奇心がわいたが、あることに思い当たった。

我が市のゴミ収集は、近隣市町村に先駆けて有料になった。
それが発表されたとき、他のサービス行政は後れをとっているのに、
こんなときばかり他市町村に先駆けてと怒りがわき、
住民には経済的負担が増すばかりと憂鬱になった。

「今まで以上に家から出すゴミを少なくしなければ」と決意を新たにしたが、
彼女は公園のゴミ箱を私物に転用し、自宅から出すゴミの軽量化を図っていたようだ。
なんともみみっちくて、いやらしい根性だ。

そんな汚い根性こそ、ゴミ箱へブチ込め!



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