第142回  万年初心者のグチ

「あっ、わたしのこと!」と、共感をもって読んだのは、
ある日の新聞のシリーズの中の<万年初心者が生まれる謎>である。

長年わたしが感じてきたことが、
まるで心を見透かしたように毎回書いてあるので、
決して自分だけがマニュアル嫌いのナマケ者ではないと安堵した。

パソコンをはじめて買ったのは15年ほど前である。
今では信じられない3ギガの容量の製品が、40万円以上もした時代だった。

しかし、根っからのマニュアル嫌いのせいか、
1年間はブロバイダー契約をしないまま、ワープロ機能だけを使っていた。
その間に新商品が出回り、せっかくの高価格製品も、
1年後には、押しも押されもせぬ中古品に成り下がっていた。

1年後にようやくブロバイダー契約をしたものの、
接続時間による課金制だったのと、ネットサーフには興味がないので
メール機能だけを使っていた。

生活のスタイルは物が壊れるまで使う主義だったが、
最初に買った機種のものは、壊れなかったけれど買い換えた。
旅行の写真やエッセイ、猫の写真やお絵描きがいつのまにか膨大な量になり、
ぼちぼちHPでもと思ったが、3ギガの容量ではHPはとても無理だとわかった。

買い換えた機種は最初から調子が悪く電話サポートを受けながら、
6回ほど断続的に初期化をしたが是正できなくて、
とうとうメーカーでハードディスクを取り替えてくださった。
それも5年後に画面に縞模様が現れ、数年前に泣く泣く3台目を購入した。

今ではHPを公開し、グーグルのカテゴリに掲載されているせいか、
パソコンの技術もそこそこあると思われているかもしれないが、
ほとんど<初心者>レベルである。

HPはビルダーという多機能なソフトを使っても、
最低限の機能で最初のページを作り、それをコピーして今日までしのいできた。

高いソフトの便利な機能でもほんの一部しか使っていない(使えない)のに、
3台目でビスタを購入したら古いソフトは受け付けなくて
ビルダーも買い換えなくてはならなかった。
写真編集のソフトも同様だったから、余計な支出にショックを受けた。

3台目を買い換えるとき、どうせHPだけのパソコンだからXPを買うつもりでいたが、
ちょうどビスタを売り始めた時期であり、当時はまだパソコンをやっていなかった夫から、
生意気にも「この時期にXPを買うなんてバッカじゃないの」と軽蔑され、
不承不承ビスタを買った。

そのビスタが不評で、短期間のうちにもうなんとか7になっているようだから、
今度はわたしが夫に「バッカなのはアナタだったようね」と言ったが、
内輪もめをしたところで余計に支払ったお金が戻るわけではない。

パソコン関連で購入したソフトはこの二つだけであったから、
それでも幸いだったかもしれないと諦めた。

最低機能しか使っていないHPは、当初訪問者から
「テキストだけのHPはめずらしい」というコメントをいただいたが、
それすら意味がわからなかった(未だによくわからない)。
HPも理解して完成したのではなく、
試行錯誤でいじっているうちに「出来てしまった」ものが多い。
どうしてそこまで操作できたのかが、未だにピラミッドの謎である。

デジカメにしても同様。
最初に懸賞でゲットしたデジカメは、宅配で届いた箱をそのまま放置していたら、
これまたデジカメなど手に取ったこともない夫が、勝手に開けていじくっていた。
わたしが散歩のときに持ち出したのはそれから半年以上もたっていたが、
これもひとえにマニュアルを読むのが苦手だったからである。

散歩しながらめちゃくちゃにシャッターを押しまくって、半分は体で覚えた。
そうした写真で図々しくコンテストに応募して入賞し、
最新機種のデジカメをいただいて、それをまたほとんど体で覚える日々だから、
高級種のカメラのマニュアル操作の正しい使い方は、
今もほとんどわかっていない。

パソコンやデジカメのマニュアルは、
読んでいるうちに難しい専門用語が出てきてそこで行き詰る。
そうでない場合でも、次に移るときの操作をマニュアル通りにしても進まない。

なぜか。

パソコンやデジカメを少しいじった人ならば理解できるような安易な操作は、
こんなところまで説明する必要ないわね、とばかりに省略してある。
しかし、初心者はそこでつまづくのである。
なにしろ、右も左も何もわからない人なのだから。
だから超初心者、あるいは初心者と称されるのである。

マニュアルは初心者のために<も>あるのではないの?

それが長年のわたしの疑問だった。
なにゆえ初心者のためのマニュアルに、
初心者が知るはずもない専門用語がちりばめてあるの。

つまりマニュアルの書き手は、その製品については知識が豊富な専門家であり、
上級者の視点で初心者のためのマニュアルを書いているのではないかと邪推している。

わたしはパソコン教室には一度も行かなかった。
それでもなんとか基本だけはこなすようになれたのは、
当時、初心者に優しいマニュアル本として人気のあった
インプレス社の<出来る>シリーズのおかげである。

パソコン操作や、ソフトのマニュアルシリーズだったが、
この本が人気を得たのは、パソコンの操作画面をそのままイラストにして、
ひとつひとつ噛み砕くように順序を追っているビジュアル効果であろうか。

これならばどんなにマニュアルを読むのが苦手の人でも、
イラストと同じ操作を実際の画面上で追っていくだけだから、
わたしのような<超ワカラン人>でも、一発で理解できたのである。

そのシリーズを初めて使ったとき、
「きっとこの本の編集者はわたしのようにマニュアルで苦労したから
 超初心者でも一目で理解できるように工夫したのね」と、つくづく感心した。
(このような視点と姿勢は、あらゆる業界の顧客サービスにもつながるのでは?)

マニュアルに強いということは、メカに強いということになるようだから、
メカに強い読者の方からは「勉強不足、努力が足りない」とお説教を受けると思うけれど、
さまざまな製品についてくるマニュアルの存在は数えきれない。
初めてその製品を使う消費者にもわかるようなマニュアルを作るのが、
企業の優しさであると思っています。

マニュアルについて思うことは、選挙のマニフェストの財源について、
民主党議員が選挙前に「10兆円、ある! ある! ある!」と連呼していたように、
わたしも「ある! ある! ある!」と、いくらでもマニュアルのグチを連呼できますが、
お勉強の方もがんばりたいと思っています、ハイ。



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