第141回  たかが魚の切り身、されど・・・どうなっているの?

利用するスーパーの魚の売り場で、いつも不満を覚える。
スーパーの魚の切り身はなぜかすべて三枚セットのトレイになっている。
若い夫婦と子ども一人の家庭を中心に据えているのだろうか。

しかし、夫婦ふたりの世帯らしい高齢者をスーパーで見よく見かける。
むしろ目につくほどだから、夫婦ふたりきりの家庭もそれなりにあるはず。

我が家もふたり家族である。
これまで我慢して三枚セットの切り身を買っていたが、
残った一切れを何かに使おうとしているうちに日が経ち、腐らせる。
あるいは、もったいないと無理して三枚を二人で食べるから不満は募るばかり。

夫は魚が嫌いで、結婚当初は一切受け付けなかった。
騙したりなだめたりすかしたりと、あらゆる手を使って努力した結果、
しぶしぶ食べてくれるようになったが、本音は魚メニューを避けたいのだ。

その証拠に、魚メニューが二日続くと
「オヨーっとなって、胸がムカムカする」と、必ず文句を言うので、
日を空けつつ、顔色を窺い、様子を見ながら魚を食卓に並べさせてもらっている。

三枚セットは、残った一枚の処理に窮する。
生の切り身なら、残ったものは冷凍保存が出来るが、
大抵の切り身は冷凍保存したものを解凍して店舗に並べている。
過去のトレイに「一度解凍したものです。再び冷凍保存しないでください」
と書いてあるのを見た。
味覚が落ちたり変わったりするからだろう、と勝手に解釈している。
それゆえ、残った一枚は冷凍保存をしない。

なぜ、二枚入りの魚の切り身がないのだろう?

四人家族は二枚セット二つで足りる。
五人家族はどうするのか? 二枚と三枚のセットがあれば足りる。
二枚入りのセットはかなり需要度が高いはずでは? と思ったが、
散歩の帰りの夜7時ころのスーパーには二枚セットはない。
需要が多いので売り切れてしまったのかと思った。

しかし、それならなおさら用意しておかなければならないはず。
そのころの売り場には、三枚セットしか残っていないのだから。

謎の多いスーパーの魚の切り身・・・

・・・とまあ、このような些細なことをチマチマ考えて、
ついに数ヶ月前に、ようやくその理由を問うチャンスがやってきた。

冷蔵庫に三枚セットの使い残した一枚があったが、
今日は食べようと思っているうちに数日が経過したせいで、
すでに土色に変色していた。

これまで賞味期限切れの食品もいろいろ口にしてきたが、
切り身魚の変色の見た目の悪さに、さすがに立ち向かう勇気がなかった。
無念の涙をこぼしつつゴミ箱へお引取りを願ったが、
そのときムラムラと気持ちが高揚して来た。

捨てられた切り身の怨念が乗り移ったのか?

その場でスーパーのレシートに印刷してあった電話番号をプッシュしていた。

店長が不在で副店長が対応してくださった。
今後は二枚セットも店頭に置くようにします、と彼は約束してくださった。
別に人気があって売り切れていたのではなく、
最初から二枚セットはスーパーの頭の中には存在しなかったようである。

他のスーパーでは、サケの切り身をフリーで店頭に並べていることがある。
客が勝手に好きなだけビニール袋に入れるスタイルのものであるが、
これはすごく便利で、トレイもラップも使わないので環境にも優しい。
店側も包装する手間も省けてよいはずだが、なかなかこのスタイルは定着しない。
衛生的に問題があるのだろうか。
それとも、果物や野菜売り場でよく見かけるような、
大きいものばかりを必死に漁る客のマナーの悪さを封じるためなのか。 

しかし、このスーパーもサンマの時期には氷の箱に詰めたサンマを自由に取り出し、
ビニール袋へ好きなだけ入れることができる。
とてもありがたいが、では他の魚はどうして出来ないのか。
スーパーの魚の切り身ひとつでも、世の中はわからないことが多い。

副店長に電話してから数ヶ月経った。
その間、スーパーへは何十回と足を運んでいるが、
二枚セットの魚の切り身は、まだ一度もお目にかかっていない。
その理由を聞いてみたいとチャンスをうかがっていたが、
数日前にレジに並んでいたとき、それは訪れた。
レジの女性が通りかかった男性を「副店長!」と呼び止めた。

チャンス到来! 

「副店長さん!」と、わたしも呼び止め、電話での約束はどうなっているのか聞いた。

副店長さんは言った。
「二枚セットは売れ行きが悪く残ってしまうので・・・」

(あら、おかしいじゃない。いつも残っているのは三枚セットばかりよ。
 だから電話で二枚セットをお願いしたのに)

どうなっているの。
世の中、こんなのばっかり!



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