第136回 大きなお世話、日本式危機管理

我が家の海外旅行はドライブが目的である。
ヨーロッパ、アメリカ、中米、東欧、アフリカ、オセアニア等
かなり多くの国でハンドルを握っているけれど(夫が)
アジアではハンドルを握らないことにしている。
例外としてマレーシアとトルコで経験があるだけ。
理由は、ほかのアジアの国は「怖い」から。

例えば、韓国はわが国よりも人口は少ないが交通事故件数は多い。
かの国の、唐辛子に似たヒリヒリの国民性を思い起こすと無理もないと考える。

アジアが怖い理由は、中国を旅行してみるとよくわかる。
信号は何のために存在するのか? という疑問にはじまり、
車を運転する側の立場になるとその恐ろしさを実感できるが、
現時点では中国でレンターカーのサービスはないようである。

しかし、広大な国土を見て廻るには車での移動が一番有効な手段と思える国だが、
残念なことに各分野での基盤が整っていないから、
わたしが生きている間にそれが実現されるのは無理ではと諦めている。

多くの人が、自分の住む国の運転マナーが一番良いと信じ、
かつ安全だと思い込んでいるふしがあるようだ。

トルコの僅か2週間ほどの周遊ドライブの道中で、
車が180度回転したシリアスな状況だが、
車輪自体はのんびりと空を眺めている横転トラックを3回も見た。

その1回は、着いたばかりの空港から路線バスに乗り、
イスタンブールの市内へ向かうバスの車窓からであり、
これからドライブをしようとする身にはショックな光景だった。

その翌日、ブラブラ歩きの市内観光で信号無視やら、
雑然とした交通状況を目の前にして不安になり、
レンターカーのオフィスの窓口で思わず
「この国のドライブは安全ですか?」と口走ってしまった。

オフィスの窓口は言った。

「アジアに比べたら、バイクが走っていないだけはるかに安全です」

ブルガリア、ルーマニアでの市内の運転マナー状況も結構ひどかったが、
車を借りる際のレンターカーの窓口は言った。
「トルコを運転しているなら大丈夫、わが国はトルコよりはるかに安全です」

イタリアの市内見物で最初に観光したのは、コロシアムの前の交通事故だった。
交通事故の様子はしっかりスクープして
ネット姫の世界の旅写真写真HPにも写真をアップしたが、
1ケ月の周遊ドライブを経験してみて、
イタリア人の運転マナーはこれまでのどの国よりも最悪に感じた。

しかし、イタリアでレンターカーを借りる際に、もう窓口で問うことはなかった。

きっと窓口はこう言っただろう。
「東欧よりも、トルコよりも、アジアよりもわが国のドライブは安全です」

ドライブ旅行をするといつも不思議に思う。
その国のどこかしらで道路工事に出会うが、
日本では当たり前に見かける警備員やその類の要員は、ほとんど見かけない。
道路工事中の交通をさばいているのは看板だけのところが多く、
たまに人がいたとしても旗振りが一人だけという状況でそれも珍しいほどであるが、
そのくせ道路工事につきものの渋滞にもあったことがない。

一方、日本での道路工事はどこかおかしいと思う。
住まいの近くの交差点の傍らで黄色い作業服が10人以上の団体でいたので
重大な事故かと思ったが普通の水道かガス工事だった。

しかし地中を掘っていた人数と交通整理の人数がほぼ同数であり、
人あまり現象のせいかサボっているように見えたが、
交通事情もそれほどきつくはない交通警備に、
これほど手をかけなければ工事は出来ないのかと呆れた。
かけた経費はどこから? と考えると、かなり無駄が多い気がする。

知人のお茶会に招待されたついでに、
話題の「東京ミッドタウン」へ足を運んだが、
地下鉄の六本木駅から地上に出たとたんに、
汚い六本木の景観とうるさい警備員の声が襲ってきた。

ミッドタウンの近くの二箇所の交差点に8人の警備員が張り付いて、
手前の交差点の警備員が声をからして
「こちらからお渡りください、その方が早いです」と指示していた。

その信号は混んでいたので、
わたしは次の交差点の信号を渡りたくてそちらへ行きかけていたが、
手前を渡らなくてはいけないのかと、すこしまごついた。

一見、親切に思える警備員が混雑を生じさせている原因なのだから、
選択は渡る人に任せたらよいはず。
いずれにしても、どちらを渡ろうと大きなお世話と思った。
これらの指示は日本以外の国では考えられないものであるが、
日本ではほとんど疑問を持たれていないようだ。

親切でしているのだから、と弁護する人がいたとしたら、
そういう考えが気がつかないうちに生活全般を支配し、
自分で物事の判断を下したり、自分の頭を使って咀嚼するのを放棄し、
メディアの発信する情報に右往左往することにもつながるのではと考える。

異常なほどの大ブームや流行などは、
メディアの発信する情報に操られているとしか思えない。

ミッドタウンはーに立ち寄った目的はHP用の写真を撮ることだったが、
どうせブランド店と有名レストランのコンセプトで凝り固めたものだろうと思ったが、
まさにその通りで想像以上につまらなかった。

しかし、HPの話題としてはそのつまらなさが格好の題材となるから、
取材価値は大いにあった。

ミッドタウンのあと赤坂までブラブラ歩くつもりで、
表通りからビルの横の道へ曲がった途端に人の姿が消えた。
交差点にはわたしと一組のカップルだけしかいない。
交差点の角には4人の警備員が張り付いて、
信号が青になると、なんと「青になりましたぁ、お渡りくださぁーい」と、
馬鹿丁寧に頭を下げた。

信号はなにゆえに設置されているのか。

(あなたに教えてもらわなくても、青になったら渡るのが当然!)

と心の中で毒づいたが、あまりに馬鹿馬鹿しい光景である。

彼らは黙って突っ立っているのも気が引けるから、
そうするしか無かったのかもしれないが、外国人の多い地域のことゆえに、
「不思議ニッポン」の本領を見せつけていることにもなりそうな光景だった。

日本中のいたるところに、ごみを捨てるな、スピードを出すな、
犬のフンは持ち帰れ的な教育、躾け看板が氾濫している。
車内アナウンスやら、国中に張り巡らされたガードレールやらフェンスは、
他の国では特別のエリアか特別の状況を除いては見かけない存在であるが、
日本人はそれらがないと安心して生活できないというのだろうか。
それほど日本人の大人は幼稚園児化しているのか。

我が身の危機管理を他人にまかせっきりの慣れた環境から、
ひとたびすべてに自己管理を余儀なくされる国外では、
それがうまく機能しなくて当たり前。

日本人をターゲットにしたさまざまな罠も、
日本人の甘さを見越してのものであると思っていますが、
国民の日常のすべてに管理統制を敷くような恥ずべき日本方式からは、
もういい加減に脱皮しても良い時期ではないのかと思っている。

あの中国でさえ、表向きには国民生活にここまで干渉はしていないよ。
(今はマナー教育が始まっているようですが)



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