第131回  勇気をもらうニュースだけれど・・・

陰惨な事件が相次ぐ昨今、
我が家の夫婦間で「超人だ!」「信じられない!」で盛り上がり
勇気をもらうニュースがある。
高齢者が超人的なパワーを発揮するようなニュース映像である。

ハワイで行われた「ホノルル・マラソン」で90歳の方が完走したが、
レース途中に激しく雨が降る悪コンディションを克服してのゴールであるから、
年齢を考慮するまでもなく快挙である。

過去のわたし自身の体験としては、
35キロの競歩大会に参加した経験があるが、ひどい目に遭った。

歩くだけだからと大会の主催者から勧められ、
「どこまで歩けるか試してみよう」と軽い気持ちで、
特別の準備も心構えもなく当日を迎えた。
毎日の通勤で4キロの道のりを駆使している丈夫な足だけが頼りで、
途中でバテたら拾ってくれる車があるというので安心していた。

朝9時にスタートしたが、一緒に歩いていた外国人の職場の同僚は、
昼ころにはリタイアして車に拾われる身となった。
わたしは疲れはまったく感じなかったが、脚の一部に痛みを感じたのが気になった。
それでも絶対に最後まで歩いてみせると、意地のようなものが芽生え始めていたのは、
それまでは挫折の連続で、習い事や勉強は途中で挫折した記憶しかなかったので、
何かひとつくらいは最後までやり遂げて達成感を味わいたいとの思いが
強くあったのだと思う。

大会は学生たちのためのものであり、特別参加のわたしは〇〇歳代。
大会主催者がハンディを付けてくださった。
同僚と二人だけ特別に30分前にスタートしたが、
途中で次々に追いつかれ追い越された。

同僚がリタイアした後は、脚の痛みと戦いつつ亀の子の歩みながら必死で歩いた。
参加当初の軽い気持ちは吹っ飛んでいた。
大会終了時間は4時だったが、時計の針が3時を過ぎたころ、
最終のピックアップ車が「乗っていきますか?」と、
声をかけてくださったが誘惑と戦いながら断った。

最後は片足を引きずりながら倒れこむようにゴールへたどり着いたが、
最後のひとりになっていたので、700名ほどの大会参加者のすべてに
追い越されたことを知った。

すでにテントは片付けられ、ごく僅かな関係者しか残っていなかったが、
わたしの姿を認めると紐をテープがわりにしてゴールを飾ってくれた。
「ついにやった!」という達成感で胸が一杯になったが、
その後に地獄が待っていた。

翌朝、これまでに味わったことがない筋肉の激痛に襲われ、
トイレもままにならない状態で、ついに職場を休んでしまった。
二日目も状況はほとんど変らなかったが、
競歩大会の後遺症で職場を二日も休むわけにはいかないので、
激痛を押して職場に向かったが、
駅の階段を乗降するのに両手で手摺につかまらないと歩けない。
それもゆっくりゆっくり這うような状態なので、
朝夕のラッシュ時の慌しい人の流れに一人だけ取り残され、
手摺にしがみつきながら押されたり蹴られたりの状態だった。

日が経つにつれてだんだん症状は軽くなったが、
手摺を頼りは1週間くらい続いた。

そのわたしからすると、歩くどころか駆け足で42キロ、
そのうえ90歳の年齢はまさに超人だが、検索すると出てくるわ出てくるわ、
80歳、90歳代でもマラソン大会で完走した方が結構いらっしゃる。
水泳大会でも高齢者の達人ぶりをニュースで聞いた事がある。

誰もが必ず年を取るものであるから、
この手のニュースは将来の自分の姿を重ねる多くの人を幸福な気持ちにさせる。
お元気な高齢者に、わたしたちは勇気づけられることになるが、
高齢者をバックアップする社会のシステムの方はどうなのだろう。

特に最近の行政は弱者や高齢者には冷たいと思わせるものがある。
以前、高齢者が万引きをしたその理由が新聞記事で
「刑務所に入りたかった」とあった。
餓死状態で発見される一人暮しの高齢者もいる。

以前のコラムにも書いているが、日本で犯罪を繰り返す中国人が
「日本の刑務所は食事もおいしいし、歯医者にも見てもらえる」と、
刑務所入りを苦にしていないような内容があったが、
高齢者に「世間で暮らすより刑務所に入った方が居心地が良い」などと思わせる
社会環境を作ってはならないと思っています。



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