第129回  難問クイズ番組じゃあるまいし

究極の出不精ですが、散歩だけはほとんど欠かさずに励行している。
河川敷の草花をウオッチしたり、住宅街をキョロキョロして、
他人の庭先や生活環境を見て廻るのは面白い。

大通りに沿った歩道を歩いていたが比較的余裕のあった歩道の幅が、
急に人が肩を並べて歩くといっぱいの幅になった。
そこから下り坂のトンネルになっていたからである。
トンネルといっても長くはなく、
道路の交差を避けるために道路の下をくぐるだけのものである。
人が肩を触れないですれ違えるかどうかの歩道に入った途端に、
歩道上にデカデカと白い文字が書いてあった。

「歩行者優先」

コレはなんだ?
難問クイズ番組ではあるまいし、歩行者専用道路で歩行者優先とはコレいかに?

考え込みながら歩いているとまた「歩行者優先」が出てきた。
トンネルは上の道路と同じ幅しかないから、
その短い距離にこのように表示が多いのはなぜ?

不思議に思っていると、急に殺気を感じたので思わず体を横にした。
自転車が通り過ぎたとき風を切るその音で
コチラの身が切られたと錯覚するほどの恐怖体験をした。

トンネルに沿った歩道は、トンネルの底まで急な坂になっている。
そこへ自転車がブレーキをかけないまま坂を駆け下りてきたのだから、
まさに走る凶器である。

自転車に衝突されて転倒し頭蓋骨骨折の大事故も報告されているから、
その恐怖は自動車事故並みである。
トンネルを下りきると順序として登り坂になるが、
その対向からもすごい勢いで下ってくる自転車が見えた。

思わず危ない! と声を出してしまった。

「歩行者優先」の謎が解けた。

これは自転車乗りに対する注意だったのだ。

なぜ?

自転車は道交法では車と同じ扱いを受ける。
歩道は走れないはずだがそれを取り締まるべき行政が、
なぜ堂々と自転車が歩道を走る行為を想定し、
あるいは認めるような「歩行者優先」をバカでかい文字で書けるの。

たとえ自転車が歩道を走っているのが現状であっても、
仮にも法を守らせるべき立場が、
堂々とそれを表示するという感覚がすでにおかしい。
しかも50メートルほどの距離に、
4ケ所も道路幅いっぱいに書いてあるという事実。

これはこの歩道における自転車走行の危険性を充分に承知しているからに違いない。
この過度の表示からすると、過去に多くの事故があったのか?
むしろない方がおかしいと思える状況だが、
トンネルを上った場所にまた「歩行者に道を譲りましょう」とご丁寧に書いてあった。

ニューヨークに住んでいる日本人が、
東京の路上に放置されている自転車やバイクに驚き、
ニューヨークの自転車事情について語っていたが、
ニューヨークでは歩道で自転車に乗っただけで警察官に違反チケットを切られ、
簡易裁判所に出頭を命じられるという。

以前のコラム「破れ窓の理論」で紹介したことがあるが、
ニューヨークの凶悪犯罪が激減したのは、
落書きのような軽犯罪を厳しく罰することで
重大な犯罪の芽を摘んでしまおうという理論が功を奏したものだ。
この自転車の違反チケットも、その主旨に基づいているものであると思う。

一方日本の軽犯罪に対する対応の甘さは、歯痒い思いが募るばかり。
重大な事件が増え続けているのに、
行政が軽犯罪を認めるような行為を平然としているこの感覚。

また重大事件には異常なほどの反応を示しても、
落書きや自転車放置、万引き等の軽犯罪にはほとんど無反応であり、
今回の件では助長さえしている。

大きな木も小さな種から芽から育つと同じで、
犯罪の種も芽も例外ではないはずなのに。



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