第124回  気がつけば「一億総白痴」

「一億総白痴化」という言葉を覚えていらっしゃいますか?

かつて、評論家の大宅壮一氏(1900-1970)が60年代前半に、
日本人の思考パターンに与えるテレビ文化に対する懸念を表明したものである。

60年代前半といえば、
ちょうどテレビが急速に普及し始めたころではなかったか。
そのころのテレビ番組は、今とは比較にならないほど良質であったと思うが、
それでもすでにテレビという媒体の本質を「一億総白痴化」と看破した
大宅氏の洞察力はさすがである。

昔はいろいろなジャンルのテレビ番組を見ていたが、
もうかなり前から番組のメインは良質のドキュメンタリーかニュースである。
それ以外では、動物が出ている番組である。

情報番組を見るのは、興味のある事件や現象を扱っているときだけ。
世間の今をウオッチングするためバラエティも見ることはあるが、
見ているうちに苦痛になるので、すぐにスイッチを切る。

そのような貧しい経歴のテレビウオッチャーだが、
テレビという媒体の影響力を考えると、
昨今のテレビの堕落ぶりに怒りを覚える。

今や「一億総白痴化」ではなく、すでに完璧な「一億総白痴」である。

テレビ番組の作成現場で創造力が欠如しているのは否めないが、
モラルも下降の一途をたどり、視聴率稼ぎに躍起となっている。

今やバラエティ、クイズ、ワイドショウ、これらのいずれにしても、
なぜか複数の芸能人、それもお笑い芸人が多い。
ひな壇上にズラリと並ぶスタイルでコメントを発するのが定型になっているが、
いずれの局も同様のスタイルを採用している。
これらはわたしには気味の悪い現象であるが、
世間一般の人たちは疑問を感じないのだろうか?

さらにゲストのウケを狙った的外れのコメントや、
アイドルタレントの嬌声を聞かされるたびに辟易する。
番組の内容に興味を覚える題材があるときは、
チャンネルを切り替えることも出来ないから悲劇であり苦痛を覚える。

さらに、ゲストの顔ぶれも各局をたらい回ししたような人物ばかりで、
昨今ではそれでは物足りないのか、政治家や高名な大学教授、医師らが
芸能タレントなみの役割を振られ、
嬉々として出演しているのもいやらしい現象である。

若者だけでなく、今は分別盛りの年齢層までもが売名のために恥をさらしている。
テレビに出て名前が売れたらしめたもの。
著書の売れ行き倍増や講演会の講師で引っ張りだこは請け合いである。

一度メディアで人気を得てしまえば、その人物の手腕や能力に関係なく、
名前だけで各局が使いまわすから、
能力不足の名前だけの大物タレントが頻繁に登場するようでもある。

実力のプロスポーツ界さえも過去に名声を得たものは
現在の実力と無関係に人気で登用される場面が窺えるから、
アメリカのような実力一辺倒の国の厳しさに比べると、
名声(ブランド)にこだわる日本ならではの現象と思っている。

夫は、わたしが番組検証をする折に一緒に見ていたが、
司会の超人気者の大物タレントが「オマエ、バッカ」を連発する司会ぶりに
「〇〇おもしろくもない、学芸会以下だ」とコキおろし、画面から顔をそむける。
わたしも彼の司会ぶりには大いに疑問を感じている。

彼の司会ぶりは、見ているこちらが「間が悪い」ような気分にさせられる。
つまりシラケルのである。
芸事には「間が大事」とされている。
彼は噺家出身であり「間」の大切さは学んでいると思うが、
「ばーか」「オマエ」を連発するボギャブラリーのなさに、
司会者に必要な「当意即妙」が感じられない。
ヘラヘラ笑いながら一瞬次に何を言おうかと言いよどんでいる「間の悪さ」が、
わたしには伝わってくる。

しかし、彼は毎年テレビの人気タレントや好きなタレントの調査では
いつも高位置をキープしている。

他にも、元々はお笑い芸人だが
他の分野で才能を開花させて大活躍の大御所タレントは、
彼の名前をつけると視聴率が上がるというので
多くの局で彼の名前を冠した番組が並ぶからテレビ局総なめの感がある。
その内容はニュース番組あり、情報番組あり、
クイズから教育的な内容までほとんどを網羅している。

その中で彼が繰り出すかぶりものや変装したギャグは、
まったく面白いと思わないが、
周囲や視聴者はそれらを本当に面白いと感じているのであろうか。

彼の番組の内容は確かに面白く興味深いものもあるが、
それは彼のキャラクターによるものではなく、
<番組の構成内容>によるものが大きいから、
大御所の名前を冠しなくても、もともと視聴率は取れるはずのものである。
番組ディレクターはもっと自分の企画や演出に自信を持つべきと思うが、
日本社会はどうにもブランドのご威光をいただきたいようである。

彼らは常に人気タレントの高位にランクされているが、
その理由をインタビューで問われた若者たちは口を揃えて「面白い」と答える。

わたしがインタビュアーだったら「彼のどこが面白いの?」と突っ込んでみるが、
白痴社会はその理由を問うような考察力は欠如し、
それを答えさせる体制でもないようだ。。

しかし、「面白い」と言った若者がその先をきちんと答えられるか、
またどのような答えが返ってくるか興味はあるけれど。

昨今ではお笑い芸人がテレビ界を乗っ取ってしまったかの感があるが、
どの番組も金太郎アメのようで気味が悪い。
さらに情報番組などの視聴者参加型番組で、
スタジオにいるのはいずれも女性ばかりであるが、
わざわざ女性ばかりを選ぶのだろうか?

外国旅行の際に必ずその国のテレビ番組をウオッチするが、
コマーシャルや番組の内容がその国を知るのにとてもわかりやすいからである。
それらの国ではバラエティ番組のスタジオの視聴者の顔ぶれは、
老若男女がほとんど同じような比率で席を占めているから、
日本のテレビ局のコンセプトの貧しさが異様に映る。

日本を堕落させた数々の悪役の中で、
テレビの役割はその最たるものと思っていますが・・・
それを許しているのは、低俗番組の視聴率を上げている視聴者!


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