第119回 わたしはコレで、ノラ猫の教育係をやめました わたしの日課の目玉は、近くの河川敷へのお散歩ですが、 <春の小川>の歌詞のイメージがありとても気に入っている。 自治体の税金は、全国の市町村でワースト10入りするほど高額でも、 お散歩のこの環境に満足している。 市は緑を守るとのコンセプトで、企業誘致や大型店の出店に動かないから、 この環境が保たれているのだと解釈し、 環境税を先駆けて支払っていると思って諦めている。 新宿からの電車の沿線でわが市のエリアに入ると、 急にひどく活気に乏しい印象を受けるが、 緑を保護する政策との兼ね合いなのだろうか。 夫はこれを不服に思っているようだ。 小川は数十キロを流れているから他の周辺の自治体も緑が多いから、 彼には言い分があるらしい。 「他の自治体も自然環境を同じように享受しているのに、 もっと活気があるし住民の税金も安い。行政の怠慢だ」 とにかく、日課のお散歩にはもってこいの環境である。 人間に住みやすいエリアはノラ猫にとっても同様なのか、 住宅街や大学の構内にはノラちゃんがワンサカいる。 さらに河川敷は、ノラ猫銀座みたいな活況がある。 家から10分ほどのこの河川敷へ、 はじめて足を運んだのは仕事をやめた後であり、 ノラちゃんたちとの付き合いはそれからになる。 HPにはノラ猫図鑑と称して50匹ほどのネコちゃんを写真入で 特徴やら性格等のデーターを掲載しているほど付き合いが深い。 ノラちゃんたちとは顔を合わせて毎日話し込んでいるが、 その中で重視しているのがマナー教育である。 <無断でよその家に侵入しない、糞を垂れ流さない>など。 しかし、最近はノラちゃんの教育に自信を失ってきた。 人間界のマナーが地に堕ちた感じのご時世で、 ノラちゃんだけを教育することに後ろめたさを覚えるようになった。 「自分たちのマナーはどうなのさ!」 ノラちゃんたちに反発されたら返す言葉もない。 今では専らノラ猫として生きていく術の方に重点を置いている。 飼い猫から野良生活に身を落とすと、どうしても猫の面相が変ってくる。 ノラ猫は厳しい環境で生き抜いていくための、 なりふりかまわない生活が顔に表れてくるようだ。 野良生活が長くなるにつれて性格もきつくなる。 それらを考慮して教え込んでいる。 「人間を見たら逃げないでなるべく擦り寄るように。威嚇的な声はダメ。 できるだけ愛らしい声で訴えるように鳴くといいわね」 もっぱら生活面の知恵を授けている。 そのせいか、この河川敷のネコちゃんはみんなおっとりしている。 パンやお菓子などのエサには見向きもしない。 人懐っこくて可愛らしいから、缶詰やカリカリのキャットフードを 毎日たっぷり貰っているせいである。 <衣食足りて礼節を知る>とはこういうことなのか? しかし、一方の人間世界は今や<飽食が過ぎて礼節を失った>状態のようである。 以前、テレビアンケートの結果に驚いた。 全国の1000人に聞いた4つの設問があった。 内容は電車の中で許せない行為はどれか? <食べ物を口にする行為> <カップルがイチャつく> <お化粧をする> もうひとつは忘れたが、 結果は<カップルがイチャつく>が60%を超えて断然トップだった。 わたしはこの結果に唖然とした。 通勤者が利用する普通の電車でのマナーであるから、 通勤電車の中でお化粧やお弁当を食べるような行為が マナー違反だと思っていたからである。 かつては慎み深い民族であったから、 その片鱗として<人前でカップルがイチャつく行為>を 恥ずかしいと捕らえるのはある程度は理解できる。 しかし60%以上で断然トップとは理解しがたい。 裏を返せば、通勤電車の中でお弁当を食べたりお化粧をすることには、 あまり抵抗がないということになるのか。 日本ではまだ歴史の浅い<人前でイチャつく>であるが、 ラテンの国では常識である。 宗教上などの厳しい戒律の国を除けは、 世界的には愛情表現がマナー違反とはなっていないはず。 しかし<お化粧をする>はどうだろう? 西洋では人前でお化粧を直すのは、<娼婦>とされていると仄聞した。 それほど人前の化粧直しはハシタナイ行為と捉えられているようである。 それゆえ女性は決して人前でお化粧直しをしない。 直すのさえはばかられるのだから、 素顔に施すメイクの過程を人前に公開するなどは論外である。 以前、地下鉄の車内でそれを実際に見物したことがあったが、 まさにみものであった。 最初から最後までの工程を面白い演じものでも見るように じっと観察していたが、手際のよさに感心した。 最後の工程で、まつげにマスカラを塗るときは、 揺れる電車で誤って目の中にマスカラを塗りはしないかとハラハラした。 数年前の新聞記事にアンケート結果があった。 <女子大生で電車の中でお化粧をしたことのある人は30数パーセント> マナーは年々ひどくなっているようだから、 当時よりは数値はさらに右上がりになっているはず。 やっぱりマナー教育は、ノラ猫ちゃんよりニンゲンの方が先かしら。 HOME TOP NEXT |