第118回  ティッシュペーパーとすっきり収納

食事時。
夫がちょっと指先をぬぐったティッシュペーパーをテーブルのうえに置いた。
妻もエビの殻を剥いた指先をぬぐおうと、そのティッシュに手をのばした。

「あーあ、ティッシュくらいでケチケチしてさ」と、夫。
「ケチ?」と、わたし

夫のティッシュはまだ新雪のように真っ白であり、
わざわざ新しいペーパーを取り出すこともないと思ったまでのこと。
もったいないと思う気持ちもちょっぴりあったけれど・・・

そのティッシュをゲットしたのは、駅前のパチンコ店の前を通ったときである。
野球帽をかぶり、グリーンのジャンパーにミニスカートの
タレントさんのような女の子が、
手にしたティッシュを「さっ」と差し出したので
思わず「サッ」と受け取った。

若い女の子と、大昔の女の子は見事なあ・うんの呼吸で
ティッシュをやりとりしたのだった。

ティッシュ配りというものが街角に現れはじめ、
やがて通行人には当たり前の風景と映るようになったころ、
わたしはティッシュは箱入りを買って使うものだとまだ思い込んでいたから、
そのころは「さっ」と出された手を「サッ」と避けて通っていた。

その後、外国旅行へ行く回数が多くなった。
最低でも年に3回、多いときは5回ほどになったので、
旅行の経費をなるべく少なくすむように努力を始めた。

まだ国鉄と言われていた当時の日本の駅のトイレには、
当然のようにトイレットペーパーが備えてあったが、
アジアの駅や公衆トイレには備えてないと旅行雑誌に載っていたから、
アジアを旅行するときは携帯用のティッシュペーパーが必需品になった。
旅行日程の長さや旅行回数を考慮すると、
かなりの量を用意しなければならない。

さっそくドラッグストアーへ携帯用のティッシュを買いに走り、
価格を見て驚いた。

「高い! 高すぎる!」

その心境は「路上でタダで配っているのに、なにさ!」

もちろん、ティッシュは買わないで店を出た。

それからは街でフラフラするように心がけ、
できるだけ多くのポケットティッシュを集めた。
夫にも協力を依頼したからすぐに山のように集まったが、
その後も街角でティッシュをもらう癖がついてしまい、
ポケットティッシュは我が家に溢れるほどになった。

皮肉なことに、わたしが訪れて利用したアジアの駅や公衆トイレには
ペーパーが備えてあった。
そのころわが国の国鉄はJRと名前を改めたが、
なんと生まれ変わった鉄道のトイレからトイレットペーパーが消えた。
それゆえ、アジア旅行のために用意した膨大なポケットティッシュは、
経済大国と言われているわが国のJRのトイレでその役目を果たすことになった。

さらにその後、
当のJRが経済大国の名称に見合わない対応をさすがに恥ずかしく思ったのか、
心を入れ替えてトイレにペーパーを常備するようになったが、
その費用が当時で3億円と聞いている。

かくして、我が家の膨大な量のポケットティッシュは再び行き場を失った。

「ティッシュだって長い間ため込んでおくと腐っちゃうぞ」

いい加減な夫の言うことだからそのまま信じるわけにはいかないが、
じゃんじゃん使ってしまうのにかぎる。
それで日常生活でも使い始めたが、根がケチなのだろうか、
冒頭の行為に及んでしまったのだ。

本当にわたしはケチなの?

ある日のテレビで、洋服の収納についてその道の達人が語っていた。

「三年間も着ていない洋服はその先もずっと着ない必要のないものです。
 思い切って捨てましょう。そうすれば収納はスッキリします」

わたしは膝を打った。
ひごろ夫に言い続けていた内容と同じだったのである。

その夫は、部屋やトイレの電気はつけっぱなし、
歯磨きの最中は水道水を出しっぱなしで、およそ経済観念がないと言うのに、
なぜか衣類には執着が強かった。

もう雑巾にしても惜しくないような、襟や袖口の擦り切れたワイシャツ、
色の褪せきったTシャツをため込んでいるからクロゼットの整理がつかない。
それでも当の夫から「そのうちに着るかもしれないぞ」と脅かされると
決心がつきかねていたが、収納の達人から言われると、
催眠術にかかったようにコロリと決心がついた。

一度も袖を通していないもの、数回しか着ていないものでも、
マーケットやリサイクルショップに持ち込むのはモノグサの性に合わないから、
三年前のものは断腸の思いで清水の舞台から投げ捨てた。

クロゼットが見違えるようにスッキリした。
やっぱり達人と言われるだけあるわいな、大成功! と思った・・・

・・・が
「もったいないことをした」と後悔の念が日ごとに膨らんできた。
それゆえ、気持ちの方は未だにスッキリしてはくれない。

収納の達人さん、
次回は心の後悔の念をスッキリ収納しちゃう術をよろしくお願いしますネ。


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