第117回   やっぱり好き!

今日は珍しくスーパー、コンビニと渡り歩いたが、
スーパーは食料品の調達、コンビニはコピー機の拝借である。

スーパーの開閉扉の前で内から出てくる親子連れと鉢合わせした。
このような場合はどちらかが譲ることになるが、
そうでもしないとお互いが永遠に鉢合わせ状態で、
下手なコメディ映画のように相手が左へ行けば自分も左、
右へよければなぜか右という場面展開になるはず。

コメディは見るには楽しいが、
実際にそれがわが身に起こったら悲劇という要素がある。
だからわたしは自分に優先権があると見られる状況下でも、
すぐに相手に道を譲ることにしている。
それはすでに習慣みたいなもので、
しかもご丁寧に「あら、ごめんなさい」とお詫びの言葉とセットになっている。

このような態度を相手に取られたら、
自分としては恐縮の極地になるが、世の中はいろいろ、人もいろいろ。
道を譲られるのは当然と、風を切って黙って通り過ぎる人もいる。
しかし、大抵がなにかしらの挨拶を返してくださる。

本日の主役の親子は、30代の中肉のママと3歳くらいの女の子。

通路を譲ったわたしの前をママは「どうも・・」と言って頭を下げて通り過ぎた。
その後から女の子が「どうも・・・」と、ママの真似をして通り過ぎた。
その大人びた様子が愛らしく、おかしくて笑ってしまったが、
親の姿を見て育つとはこういうことなんだなぁと、
現場検証をしたような気分になった。
もしママが黙っていたら、
女の子はそれが当たり前と思いそのように育つことになるだろうから。

コンビニでコピー機を操作していると、
ふくよかなママが勢いよく飛び込んできた。

「スミマセーン、おトイレ貸してくださぁーい」

ママは店員さんとは顔見知りのようだった。
3歳くらい(みんなそう見えてしまう)の男の子がトイレを目指して走ったが、
そのとき、店内に高らかに響き渡る声が届いた。

「先におトイレ貸してくださいって言わなくちゃだめでしょっ! 走っちゃダメっ!」

コピー機の横にアイスクリームのボックスがあった。
ふくよかなママがボクに言った。
「アイスクリーム食べる?」

男の子が箱の蓋を開けてアイスクリームを取り出した。
「ホラ、ちゃんと蓋を閉めなくちゃダメでしょっ!」

ママの言っていることはいちいち正しいのだが、言い方がかなりヒステリックなので、
口うるさいママだなぁとの印象を持ってしまった。
子どもに注意することで自分のストレスを解消しているような、
すこし耳障りな感じがした。

彼も一挙手一投足をヒステリックに指摘されてはたまらないだろう。
それが彼の成長過程にどのように影響するかわからないが、
それでも何も言わない無関心な母親よりは
躾という面では評価できると思った。

住宅街を歩いていると一軒のアパートの前で、
小学3,44年生くらいの女の子が二人でなにやら話し込んでいた。

「あら?」と思ったのは、彼女らの髪形がちょっと変っていたからである。
アジアの舞踊団の舞姫みたいにぴったり撫で付けた髪を後ろで団子にした、
あの髪型である。
ふたりとも揃って同じ髪型だったので、
すこし異様に映るほど目立っていた。

以前、NHKで中国の映画女優のチャン・ツイーさんのドキュメントをみたが、
彼女が通っていた舞踊学校の場面では全員がその髪型だった。
生徒はみな素晴らしいプロポーションで、清楚で凛とした美しさに溢れていたから、
ポカンと口を開けて見た髪形である。

「まあ、その髪型とても素敵ね」と思わず声をかけていた。
「今日、バレーの試験があったんです」

少女たちはちょっと誇らしげに言った。

「あらぁ、やっぱり・・・誰が髪を結ってくれたの?」
「お母さん」

「そう、とてもお上手ね、よく似合っているわ。それで試験はうまくできたの?」
「はい、ちゃんとできました」
「まあ、良かったわね」

少女たちはちょっとはにかみながらとても嬉しそうな表情を漂わせていた。
幸福な気分に浸りながらの帰り道、思ったものだ。

やっぱり子どもが好き!

ノラ猫ちゃんと子ども相手の平凡すぎる日常だけど、
毎日がたまらなく大切に思える昨今です。

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