第114回   ドライブ道中のウオッチング

夫に誘われて鎌倉へドライブした。
出不精だからたまに出かける機会は<初めてのおつかい>のような心境である。
見るものすべてが新鮮で、キョロキョロするばかり。

その手には写真コンテストの入賞でゲットした新しいデジカメが、
しっかり握られている。
スクープ現場にでも出会ったらモノにするつもりで、闘志満々である。

「なに! セーブマネー、セーブタイム? くだらん看板だ」
「えっつ、何のこと?」

「あそこの牛丼屋だ」
走る車の中で夫が言った。

慌ててそちらを見た。
吉野家ほどの知名度はないが、牛丼チエーン店として全国展開をしている、
そこそこ名前が知れている店だった。 
その店の屋号の上に英語で「save money、save time」と書いてある。

これは一体何を意味するのか?

わたしはあれこれ考えをめぐらせた。
牛丼のキャッチフレーズは<安くて早い>
「save money、save time」を直訳するとお金や時間を救う? になるけれど、
意訳するとつまり牛丼は「安くて、早い」というところに行き着くの?

フン、馬鹿馬鹿しい。

これじゃあ、まるでクイズじゃないの。
しかも日本人のお客に向けて、なぜか英語で書いてある。
その真意は? と問いたいところだけれど、
どうせ真意というほどのものはないのよね。

今、日本中に蔓延している横文字崇拝と、意味不明な造語や
その手の類の延長上にあるものだと思えばそれなりに納得できる。

これが、牛丼屋のナルシストな看板にとどまっていれば問題はない。
しかし、この手の造語や横文字が、
行政機関が国民に向けて発行する作成文に氾濫しているのだから、
黙ってはいられない。

走りながら眺めた牛丼屋の看板に、
この国の今が反映されているような気がした。

「あぶないっ!」

二車線の右側からいきなり割り込んできた車。
夫は慌ててブレーキを踏んだ。
車は連なって二車線を埋め尽くして走行しているが、
その車列を乱し、ウインカーを直前で体裁につけただけの車が割り込んできた。

つまり、ウインカーを出すのと割り込みが同時に行われた。

ほんのちょっとタイミングが狂ったら、間違いなく衝突していたから冷や汗がでた。
怒りの眼差しで前の車を睨むと、そのお尻には湿布のようにペタリと、
若葉マークが貼ってあった。

本来なら「まあ、若葉ならしかたがない」と大目に見るべきところだが、
このような状況はたとえ若葉マークといえども許されない。
運転経験が浅いという理由で、
周囲が若葉マークの運転に対して理解を示すのはやぶさかではない。
 
しかし若葉マークでも<運転マナー>の若葉マークは有り得ない。
<運転マナー>は運転経験の有無ではなく、その人物の人格に負うものである。
マナー違反で交通事故の巻き添えに遭う人こそ、大いに迷惑である。

 ・・・と怒っているところへ、また同じようなマナー違反の割り込み。
そして急ブレーキ。

車が二車線を埋め尽くして走っていても、
我が家は安全を考慮して車間距離をすこし多めにとっている。
そこをめがけてギリギリな割り込みをする不届き者が多い。

なんと今度は紅葉マークをお尻にペタリ。
このマークの実物は初めて見たが、
わずかな距離のドライブでたて続けにマークの割り込みを経験するのも珍しい。
まるで、この状況を書いてくださいといわんばかりの様子である。

高齢者の車に貼られる紅葉マークは、
高齢者の運転に対して注意を喚起するように貼られている。
高齢になり身体能力の衰えとともに、
運転技術能力も衰えると考えられるからであろう。

しかし紅葉マークは<水戸黄門さまのご印篭>ではない。
紅葉マークを貼っていれば、すべてが許されるというものではない。

我が家を追い越したマーク族は何を考えているのやら。
車が隙間のない状態で走っているうちの、たった一台を追い越したその意味は?
その先は車間距離さえもほとんど取っていない車列ばかりだというのに。
この状況はいろいろな国をドライブした我が家が
「世界一マナーが悪い」とコキおろしたイタリアの極悪ドライバーと同じである。

先の若葉マークは運転経験が浅いために、
焦って無理な追越をしてしまったという状況が考えられる要素はある。
(この場合の状況は明らかに確信犯の無理な追い越しだったけれど)
しかし、高齢者の運転経験は他よりも豊富なはずである。
焦って無理な追い越しという状況は若葉と違って考えにくい。
やはり<印篭>をふりかざしたマナー違反の無謀運転としか映らない。

自分に与えられた権利を振りかざして暴走する。

これも今の日本でよく目にする構図であるが、
平凡なドライブでも見方を変えるといろいろ見えてくるものがあるようです。


HOME  TOP  NEXT