女子トイレの中はワンダーワールド(その1)

 たまには全然違う話でも書いてみます。

 あたしは大学時代、FDCの他にロックバンドサークルもかけもちでやっておりましたが、そこでのお話です。

 平成12年ごろだったかな?11月初旬、あたしは大学祭でライブ演奏をする後輩達の勇姿を拝むため弘前に行きました−っつったら聞こえはいいけど、ほんとはただ単にあたしが遊びたかっただけだったりして。
 でもって、このバンドサークルの年中行事の中で一番大きなイベントがこの大学祭なので、みなさん宣伝活動に余念がありません。ビラ配り、呼び込みはごく当たり前。で、当然廊下やドアにも宣伝ポスターを貼りまくるわけなんですが、この年はなんと、女子トイレの個室にまでポスターを貼ってました。

 もちろんサークルの女子部員に頼んで貼らせたものなんですが、このポスターをはがす時に、ひとつの事件が起きました−

 祭のあとは当然後片付けをしなければなりませんが、この時ポスターのはがし忘れ等が残っていると学務係に厳しく注意されるので、準備の時の飾り付け&音響機材のセッティング以上にみなさん、片付けのチェックに余念がありません。
「はがし忘れない〜?」
「えーと、廊下に食堂に学部の入口のドアに−あ゛、女子トイレの個室!」
「やべ〜、残してたら怒られるぞ、学務に」
ですが、運悪くその場に女子部員は誰もいず、ケータイに電話しても誰もつながらない。そして、片付けを終えて校舎内を引き払わなければならないタイムリミット−夕方5時−まであと10分。
 そこでいけにえになったのが、その場にいた人間の中で一番下っ端だったイガラシ(仮名)←註:”カッコかめい”も名前です。

先輩A「おいイガラシ(仮名)、お前女子トイレ行ってポスターはがして来い」
イガラシ(仮名)「えー!?いやっすよ!一歩間違や犯罪じゃないすか」
先輩A「大丈夫。一歩間違わなくても既に犯罪だから」
先輩B「それにあそこ女子トイレは個室2つしかないって言ってたからそんなに時間かかんねえよ。大丈夫だって」

 ってんで結局押し切られたイガラシ(仮名)。で、細心の注意を払いつつ女子トイレの個室に入ってポスターをはがしはじめる−

 ところが、
ギぃぃぃ−
背後の出入口のドアが開いた。
”うわ。やべやべやべ”
あわてて個室のドアを閉め、隠れるイガラシ(仮名)。そしてその人がトイレを出るまでやり過ごそうとしたのだが、そういう時に限ってどういうわけか人が次から次へと順番待ちで並ぶんだよね。しかも個室が2つしかないうちの1つが始終ふさがっているわけだから回転が悪いのなんのって。で、そのまま出るに出られず、女子トイレにカン詰め状態になってしまったイガラシ(仮名)。そして、何だかんだで結局見張りetcなどを受け持ち、イガラシ(仮名)がスムーズにビラをはがせるようバックアップしてた他の男子部員も、あまりに予想外な成り行きにどうすることもできず、ただボーゼンとコトの推移をうかがうのみ−

 と、ここまできたところに颯爽と登場したわれらが救いの女神様!−あたしよ、あたし。単にコンビニでの買い物を終えて戻って来ただけなんだけどね。

「あーナッキーさん、イガラシ(仮名)のやつ、助けてやってくださいよー」
「んぁ?どしたのさ?」
てなわけで、それまでのいきさつを一通り説明を受けたあたし。で、
「あーいいよー。要するに誰にも見つかんないようにイガラシ(仮名)を女子トイレから出しゃいいんでしょ。」
「でもあのトイレって窓全くないんですよね?」
「そーだけど、ま、何とかなるっしょ」

てなわけでみんながトーテムポールよろしく廊下の曲がり角から顔を覗かせてコトの成り行きを見守る中、あたしは女子トイレの入口の前に立った。
 いちばーん、なつきー、イガラシ(仮名)救出に向かいまーす♪
そうして勇ましくドアを開けて中に入ると、もう順番待ちの人は誰もいず、個室が2つふさがっているだけ。
”よし、この分ならもうすぐ出られそうね。”
ってんで何食わぬ顔で順番待ちのフリをして中で並ぶあたし。
 そして、最後の人が個室から出てきて手を洗ってトイレから出て行ったあと、ドアからぴょこ、と顔だけ出し、辺りに誰もいないことをチェックすると、
「イガラシ(仮名)イガラシ(仮名)、出て来ていいよー」
てんでようやく個室から脱出できたイガラシ(仮名)。
「すいませんナッキーさん」
「それにしてもオモロい出来事もあるもんだわねえ」
てなことをトイレ内で話してたら、また外から足音が。
”うわ、やべやべやべ”

イガラシ(仮名)隠さなきゃ−と考える前にトイレのドアが開いた。
”でええええ!もうだめだあああ!”
てんで思わずイガラシ(仮名)を個室に押し込めてあたしも一緒に入り、内側から鍵をかけて潜んだ−
あろうことか今度はあたしとイガラシ(仮名)の2人がそろってトイレに閉じ込められるハメになってしまったのである。ミイラ取りがミイラになったとは正にこのことだぜ。

 しかし−気まずい。この気まずさは一体ナニに例えたらいいのだろうか?こんな密室でこんな密着スレスレの距離に若い妙齢の男女が閉じ込められて、しかも隣から女の子が下着を上げ下げする衣擦れの音や用を足す(以下検閲により描写削除)とかが聞こえて来るってのは
”参ったなあ・・・”
思わず壁に寄り掛かって腕組みをしながらあっちの方を見上げるあたしと、俯きかげんに仁王立ちをして親指を中にしまってグーをするイガラシ(仮名)←葬式かっつーの。

 ちなみに、その後間もなく隣の人はトイレから出て行き、今度こそ本当にあたし達は脱出に成功いたしました−

 ですが、話はここで終わりません。