百万円狂騒曲

 うちの母親には「言うな」って言われてるんだけど、もう時効だと思うし、いいや言っちゃえ。


とある年の暮れ、年末ジャンボ宝くじでうちの父親が3等100万円を当てました。マジです。


 ところで、ウチの父は年末ジャンボ宝くじに関してはちょっとしたこだわりを持っておりまして、当選番号のチェックは大みそかの生中継抽選会をあえて見ずに、翌1月1日元日の新聞でチェックするというのをポリシーにしております。そんなわけでこの年の元日もいつものように新聞を開き、おもむろに番号の照合を始めたわけなんですが、いつもなら末等の300円かせいぜいその1つ上の3000円が当たっているくらい。それで
「やっぱりそう世の中うまくはいかないね〜。」
と苦笑いと共にため息をつくというのがお決まりの展開だったのが、この年はいつもとはひと味違いました。
「番号6ケタ当たってる。うわ、組の下ひとケタも当たってるよ!見間違いじゃないよね?これって何等?」
みたいな感じで父と母と妹で大騒ぎだったようです。ようです、というのは、あたしは朝にめっぽう弱いため、仕事のない日はたいがい昼過ぎまで寝ているからです。そんなわけでこの時もご多分に漏れずグースカ寝ていました。1階の茶の間でそんな騒ぎが起きているとは全く思いもせずに。
 そして、あたしは昼近くになってからのっそりと起きだしてきたわけなんですが、あたしを見ると母親は
「お姉ちゃん(あたしのこと)ちょっと、おとーさんがね、年末ジャンボ当たったのよ。」
興奮を隠し切れない面持ちでのたまった。
 でもあたしはいたって無関心に
”当たったぁ?なんだよ。どーせ末等300円とか3000円でしょ。”
と無視。
 すると母親は重ねて
「それもね、3等なの。100万円よ100万円。」
わくわくした口調でさらに続けた。でもあたしは起き抜けで超不機嫌なため
”あぁ〜?なに正月から人を担いでんのよ。嘘つくんならもうちょっとマシな嘘ついてよねえ。”
と無言で洗面所に向かおうとした。すると
「あんた信じてないでしょ。だったらほら、証拠の品を見せるわよ。これがその宝くじ。今朝の朝刊にくじの当選番号も載ってるから 見比べてごらんなさいよ。」
いつになく執拗に食い下がる。
でも、母親にここまで言われてもまだまともに話を聞いておらず、
”めんどくさいなぁ、なんだよ。あたしゃとっとと身支度済ませて街に出たいんだよ。”
露骨に顔をしかめるあたし。でもあんまりしつこいから
”しょうがないなぁ”
みたいな感じでその場に腰を下ろし、新聞を開いてくじの当選番号のページを開き、テーブルの上に乗っかったくだんの宝くじの番号と見比べてみた。そして−
「・・・・なんか、ほんとに当たってない?これ。」
ようやくコトの重大性に気づき始めるあたし。そのくじはほんとに3等100万円が当たっていました。
「すげ〜。こんなん当たる人なんているんかいなと思ってたけど、ほんとにいるんだねえ。」
あたしは思わず父親の方を見やり
「おとーさんすごいねえ〜。よく当たったね-。」
心底感心してそう言いました。父親は
”そうだろそうだろ。オレのくじ運を見たか”
みたいな感じで得意そうにニコニコ笑ってます。そして
「でしょ?さっきからね、おとーさんと2人で使い道をいろいろ考えてたのよ。」
やっと信じてくれたか、みたいな感じで話を続ける母親。そして−。



「でね、使い道なんだけど、5%条項にのっとってあんたとミヅキ(妹)には5万円づつあげることに決めたから。」
「5%条項って・・・・何それ?いつからそんなの決まってたの?」
「たった今決めたの。おとーさんと私で。」
「何よそれ!勝手に決めないでよ!5万円とか言わないでもっとちょうだいよ〜。」
さて、ここからあたしと母親の熾烈な賃上げ交渉が始まります(笑)。
「だいたい、あたし達姉妹の取り分が5万づつってことは、残り90万がおとーさんとおかーさんのものってことじゃん。そんなに何に使うのさ〜!?」
「そりゃあ海外旅行とかいろいろね。人間、欲望にはきりがないんだから。」
「自分の欲望ばっか満たさないでよ。あたしたちかわいい娘の欲望もどうにかしてよ。」
「何であんた達の欲望までこっちで面倒見なきゃなんないのよ。第一、これはあんたが買った宝くじじゃないでしょ。」
「それを言うならおかーさんだって自分の稼いだ金で買った宝くじじゃないじゃん。おとーさんのお金じゃん。」
「おとーさんのお金は私のお金なの!」
出た!世の中の多くの専業主婦の皆様が口にするむちゃくちゃな理論!(笑)。そして、
「・・・・でもまあ、もちろん私とおとーさんとあんた達の4人だけで分け合って終わらせるつもりはないわよ。せっかくの福なんだし、少しはおすそ分けしなくちゃ。○○おばーちゃんの所と××おばさんの所に(2人ともウチから歩いて5分以内のところに住んでいる)1万円づつ渡して、あと新聞社の募金の所にも1万円寄付してきて−」
「だったらさ、あたしたち姉妹にももう少し寄付してよ〜。寄付すれば倍になって返ってくるかもしれないんだよ。年取った時に手厚く面倒見てもらえるとかさ。」
一生懸命粘るあたし。ただでもらえるのなら少しでも多くふんだくろういただこうとこっちも必死である(笑)。
「面倒って^^;・・・・・別に必要以上に手厚く面倒見てもらおうなんて思ってないわよ。うちのおばーちゃん(83歳になる母方の祖母)だって一人で暮らしてるんだし。私もその血を引いているんだからけっこう上手くやれるわよ。」
「そんなことわかんないじゃん。おばーちゃんがそうだからっておかーさんだってそうとは限らないんだし。」
「あ〜もう!この話は終わり!!ただであげるって言ってんのにガタガタ言ってんじゃないわよ。5万円って言ったら5万円でもう決まり。それ以上ごねたら出すモンも出さないわよ。」


・・・・・強制的に終わってしまいました^^;賃上げ交渉失敗(笑)。どうやら5万円で納得するしかないようである。


 そんなわけで、その後母は公約どおり近しい親戚に1万円づつあげたあと新聞社寄付窓口に匿名で1万円寄付をし(←「匿名さんから1万円寄付いただきました」みたいな感じで新聞に載りました)、あと、あたしと妹に5万円づつお下げ渡ししたあとは夫婦2人で中国旅行に行って豪快に使い切ってきたようです。


 でもって、中国旅行から帰ってきたときの母の台詞がまたふるっていました。
「いや〜、100万円てなんか、意外と”使ったぞー”っていう実感のわかない金額だわねえ。どうせ一気に使うんだったら300万とか500万くらいないとね。」
・・・・・なにそれ?100万円ははした金ってこと?(笑)。


 てなわけで、我が家に様々な波紋を巻き起こした年末ジャンボ宝くじ騒動。いちお、家庭内ではひとまず決着いたしましたが、でも、外ではこの余波はしばらく続きました。何のことかっていうと「看板」です。ほら、ああいうのって高額当選者が出ると、売り場に
”年末ジャンボ宝くじ1等3億円出ました!”
みたいな看板が出るじゃない?でもって、うちの父親が宝くじを買った売り場も出したんですよ。
”年末ジャンボ3等100万円出ました!”
の看板を。
なので父親は、その宝くじ売り場は通勤経路からはちょっとずれているのですが、朝夕の通勤の行き帰りの際はわざわざ遠回りをしてそのくじ売り場の前を通り、看板を眺めて
”へへへ。それ当てたのオレなんだよ。”
みたいな感じでしばらくは余韻にひたっていたようです。  ああ、あともうひとつあったよ余波が。それはウチの父親の宝くじ&ロトくじ熱がよりいっそう高まったことです。

 今までも父親は宝くじetcを買う際
「オレいつかデカイの当てるから。」
なんてほざきながら買ってたんですよ。でもあたしや母親、妹の女3人は
「まぁたおとーさんは寝言ばっかり言って。そんなの当たるわけないじゃない。」
ってけっこう露骨に小バカにしてたんですね。でも、この時を境にガラリと立場が逆転しました。父親が
「オレいつか1億円当てるから。」
て言っても誰も笑えなくなっちゃった
んですよ。だって実際当たったんだもの^^;う〜ん、あたしといい父親といい、我が家ではこの2人がよくくじを当てるなあ。なんだ?この顔はくじ運の強い顔なのか?(と、自分のアゴをつるりとなでるあたし)


 あ、ちなみにあたし、超父親似です。どれくらい似てるかというと、ダンナが初めて父親と対面した際にあまりのそっくりぶりに爆笑したとか、小さい頃近所のおばさんに
「あれだけ似てれば中国残留孤児みたいなことが起こって離れ離れになって、数十年後に再会しても血液鑑定の必要ないわねえ。」
と言われたとか、まあいろいろです。写真はこれ→父親(27歳)とあたし(生後6、7ヶ月くらい)

似てる・・・・かな?似てる、よね?いちお、この写真がわかりやすいかなと思って出したんだけど。ちなみにアルバムの写真をそのままスキャンしてアップしたので、外側の耳の所に撮影年の西暦下2ケタが入ってます。う〜ん、かれこれ31年も前の写真ですか。年食ったな〜^^;

 てなわけで、見果てぬ夢を追いかけあたし達家族ははまだまだ宝くじを買って走り続けます。