TOP2

『親類関係』

 人生最大の危機が訪れた。なんていうと大げさすぎると笑われるかもしれないけれど、 初めて正式に付き合うことになった彼女の親に、今日は会わなければならないんだ。
 彼女と知り合ったのは、バイト先のコンビニ。ショートカットがよく似合う、笑顔の可愛い女の子。 くりくりとした大きな目に長いまつげ、色白で小柄な女の子。 わがままなところもあるけれど、それもある意味、魅力のひとつ。
 彼女の家は、そのコンビニの近くにあるらしいけれど、まだ行った事はない。 俺の家はコンビニから車で飛ばしても十分は軽くかかる。 俺の住む町は、県庁からは程遠く、車でも、一時間はゆうにかかってしまう。 はっきり言っちゃえば田舎。
 町内には、二十四時間営業のコンビニはない。バイトしているそこは、隣町。 それもつい一年程前にオープンしたばかり。
 俺の住む町で、一番遅くまで開いている『フード&リカー北川』は、親友の家で、 それでも午後九時には閉まってしまう。 不便なことも多いけれど、結構この町が好き。
 彼女とは高校は別。俺は自分ちの近くの工業高校、機械科の二年。
 彼女は、電車通学でそこよりちょっと都会(笑)の普通科高校の一年。
 彼女は俺のことを、 とも 君と呼ぶ。 だけど、俺の友人は『じい』とか『おじいちゃん』などとふざけた呼び名で呼ぶ。 別に顔が老けているとか言う理由じゃない。
 身長百七十八センチメートル。体重六十キログラム。髪は手は加えてないけど赤茶。ちょっとロン毛。 自分で言うのもなんだけど、都会じゃ、十人並みの顔だとしても、ここら辺じゃ、かなりイケてる。
 そのあだ名の由来は、俺の名前「 板垣友蔵 いたがきともぞう 」にある。 確かに名前だけ聞くとどこのじいちゃんだっていう古臭い名前だけど、 正確には「ちびまるこちゃん」に出てくるおじいさんと同じだってことで、こんなあだ名が定着してしまった。
 これは、いささか不満。彼女に本名は言ってない。こっぱずかしい。だから、彼女の中では俺は 板垣 友 いたがき とも
 でも、それも今日まで。親に会うことも本名を知られることも、すごい偶然から始まったことなんだ。

1
NEXT