〜プロローグ〜 「うるさいんだよっ、放っておいてくれよ! 本当の親でもないくせにっ」 苛立ってたボクは、胸にしまってあったはずの言葉をそこで吐き出してしまった。 母親の顔は、驚きに満ちてそれから笑い出した。 「なにを突然、そんな寝ぼけたこと言ってんの?」 「とぼけたって、知ってるんだからな」 口から出てしまった言葉は取り返しがつかない。ボクはもう開き直って、そう母を問い詰めるしかなかった。 「……あのねぇ。あんたが、母さんの子じゃなかったら、誰の子だって言うのよ」 確かにそこまでは分からないけれど、このまま引き下がるわけにはいかない。 だってちゃんとこの耳で聞いたんだ。あの夜のことは、今でも頭に染み付いている。 あの夜は、どんな理由で叱られたのかすらもう覚えてなんかいないけれど、 母にひどく叱られて、ふてくされて、夕飯も取らずに自分の部屋にこもり、ベッドにもぐりこんでいた。 夜遅くになって階下に降りた。どうしても空腹に勝てなかった。 気付かれないようにそっと下りていくと、話し声が聞こえたんだ。 父と祖母の声が……。 「いくら本当の子じゃないからって、あんなにきつく叱る事ないのにねぇ」 祖母の声がボクの耳に届いた。本当の子じゃない?? 耳を疑った。 「母さん、その話は……。どこで ドキドキドキドキ……。心臓の音が、障子の向こうまで聞こえるんじゃないかと、ボクは不安に刈られながら、 それでもその場をゆっくり去った。そこで物音を立てて、二人の話を聞いてしまった哀れなボクの登場、 なんていう三流のドラマみたいな展開は、絶対にイヤだった。 受け入れたくないと思いながらもそれを確かめることもせず、ただ息を殺して今下りた階段を上った。 空腹と戸惑いでその夜は眠れなかった。あの夜のこと……。ずっと胸にしまっておこうと思っていた。 だって、母は、優しいことだってあるのだから。 いつも怒ってるわけじゃないし、褒められる事もあったし、何よりボクは、それでも母が好きだったから。 なのに、つい言ってしまって。だけど、じゃ、ボクは誰の子なんだろう? 「怒られたくないからって、そんな悪い冗談はよしてよ」 何も言えなくなったボクを見て、母は、呆れたようにそう呟いた。 もうさっきの怒りなんか、どこかに吹き飛んでしまったかのように。 「冗談なんかじゃないよ……」 そこでやめることも出来たんだ。だけど、今を逃したらもう聞く勇気は出ないかもしれない。 ボクはそう思った。 「ボク、聞いちゃったんだ。父ちゃんとばあちゃんが話してるのをさ……」 母は、一瞬、何のことか分からないような顔をしていた。 でもそれは、ボクには動揺しないように誤魔化してるんだって思えた。 それからボクの説明を聞いて、母は、納得したように神妙な面持ちになった。 やっぱり、ボクハコノヒトノコドモジャナインダ。 頭が真っ白になりながら、母、いや、目の前の人が勧めるままに、そこに腰を下ろした。 真実が告げられようとしていた。 |