ロストカラーズ

『自転車創業』 製作

※このゲームは全年齢対象の一般ゲームです


他のゲームの記事でも同様の事を述べているので既に聞き飽きたという向きもありましょうが、俺は単純な紙芝居ノベルゲームより何かしら凝ったシステムを使ったものが大好きです。

その点で自転車創業のゲームには、従来の選択肢やバックログの概念をひっくり返した革新的なそのゲームシステムを採用しているところからかなり好印象を持っていました。
同ブランドの前作である「空の浮動産」も面白かったことですし、今回は更にシステムが進化したとのことなのでこちらもプレイしてみるかと購入。



「空の浮動産」では謎解きに詰まって1週間放置した俺が、更にレベルアップした「ロストカラーズ」を無事に解ききることが出来たのでしょうか?
それでは、「ロストカラーズ」レビューです。

<ストーリー>



「色の侵食」によって伝染する疫病を防ぐため、国全体を「色をなくす結界」で覆った王国。
主人公レアルの任務は、そんな中で時折発生する色付きの人々=「カラーズ」の討伐であった。

その容赦ない任務遂行振りから快楽殺人者と罵られ疎まれながらも、それが自分の存在意義と信じただひたすら"カラーズ"を殺し続けるレアル。
功績を認められ、皇女スフライトとの婚約により王位継承権までも得た彼の将来は順風満帆のはずだった。

そう、彼自身が"カラーズ"となってしまうまでは。
追う立場から一変して自らが周囲に追われる立場となるレアル。

そんな彼を王国の追っ手から匿ったのは、あろうことか皇女スフライトその人だった。
そして、混乱する彼に皇女はささやく。「色を元に戻してみない?」と。




まさに古き良き「アドベンチャーゲーム」なお話(といっても俺は昔のADVをそれほど詳しくは知りませんが)
上記の導入部が過ぎた後は、スフライトと共に色の付いてしまった自分の体を元に戻すため奔走する事になります。
ある地点で障害に突き当たる→拠点に戻って調べ物or他の地点の探索→それによって得た記憶を使って障害突破
というのが基本の流れですね。
ストーリーのほとんどは色を元に戻すための主人公とスフライトの試行錯誤で占められています。


色を元に戻すために必要なアイテムはすべて結界の外の「色のある世界」にあるのですが、厄介なことに結界の外の世界では時間が循環しているため毎回結界を出入りする度に状態がリセットされてしまうという設定があります。
なので途中までどんなにうまく行こうが基本的に一度失敗したらもう一度最初からやり直し。
目的が達成できるまで何度も同じ場所に赴き、同じ謎解きをに挑むのはある意味「ループもの」の物語といえるかもしれません。

そしてそういった観点から見た場合、「繰り返す世界のなかで、『前回の経験』を思い出すことによって未来を切り開く」というのはこの手のお話の重要な要素ですが、これがキーワードを収集してそれを主人公に思い出させることによって進行する独特のシステムと組み合わさることにより、プレイヤーと主人公の間に不思議な一体感を生み出しています。
主人公の前に立ちふさがる障害を、それを突破するために必要な今までの経験を「思い出させ」て乗り越えて行くときまさにプレイヤーと主人公は一心同体。
極限まで心情描写を廃したテキストもまた一体感に磨きをかけています。


さらには、国のために"カラーズ"を殺すことを正義だと信じそれ以外のことに目を向けてこなかった主人公が、自らの色を元に戻そうと四苦八苦する中で自分の頭で物事を考えることの大切さに気づくというお話の流れと上記の障害突破のためのプレイヤーの試行錯誤が見事にリンクしているのも地味に凄いところ。


特殊なシステムのノベルゲームというのは数ありますが、そのシステムとストーリーがこれほどまでに見事に融合している作品というのはなかなか無いと思います。


また、「ノベルゲーム」=字を読んで選択肢を選ぶものという固定観念を逆手に取ったかのような謎解きは解くのに結構な発想の転換を必要としますが、だからこそ自力で解いたときの快感はまさに例えようの無いもの。
単純な選択肢総当りではクリア出来ない絶妙のひねり具合がたまりません。

…とはいえ、伏線をかねて用意されたヒント達もかなり分かりづらいのでいったん詰まってしまうと下手したら永久に解けない可能性すらあるのはなんですけど。

<キャラクター>

レアル・カートゥン

主人公。"カラーズ"討伐を任務とする騎士だったが、自らが"カラーズ"となってしまったため追われる身に。
スフライトと協力して色を元に戻すために奔走することになる。


少し邪魔されるとすぐに「こいつ殺していいか?」とのたまう素敵なお方。
あまりにもナチュラルに快楽殺人者過ぎてもはやギャグの域にまで到達しています。
そのくせ自分では快楽殺人者であることを自覚していないという相当性質の悪い男です。

そんな彼が色を元に戻すための冒険行(?)を通じてどのように変わっていくか、それは見てのお楽しみ。

スフライト・キューレ

本編のヒロイン。
もともとは皇女としてレアルの婚約者だったが、何を思ってか自らの立場をなげうって追われる身となった彼を匿う。
なにか秘められた目的を抱えているようだが…


おてんば皇女様(ダウナー系)
物語のほとんどは彼女と二人きりでの探索行になります。
主人公は上記のとおり人殺ししか出来ない(知らない)奴ですし、スフライトもそんなに明るい訳ではないので軽妙な掛け合いというわけには行きませんが、逆にそんな二人だからこそ微妙な会話に妙な面白さが。
スイッチを見るととにかく押したくなるとか、手に入れた魔法の杖をひそかに気に入っている所とかよく判らない萌えポイント(?)あり。

ミドリ・サラシナ

スフライトの侍女。
基本的に探索行に同行することは無く、主人公たちの拠点での調べ物に協力することによって探索行をサポートする。


暗い人の多い「ロストカラーズ」の一服の清涼剤です。
謎が解けなくてループを繰り返して疲れた所で、彼女の能天気な笑顔と唄で癒された人は数知れず。
何食ってたらそんなフレーズ思いつくんだとライターの人の頭を疑う珍妙な唄の数々が印象に残ります。
あと、本人も言ってますがいくらミドリのところに通いつめてもミドリルートは無いのであしからず。

他にも数人サブキャラたちが居ますが、彼ら彼女らの解説をすることはすなわちネタバレにつながるので省略。
というか、改めて書いてみるとゲーム時間のほとんどはスフライトと二人きりで過ごしていたわけで、それを退屈に思わせないというのは地味に凄い事なのではないかと思います。

<グラフィック・音楽>

原画はrato氏
お話の内容的にあまり媚び媚びの絵柄では合わないだろうので、良い選択かと思います。
設定上ゲームのほとんどはモノクロの無彩色の画面で進むので、華の無いこと甚だしいです。


音楽は普通の打ち込み系ながらも地味に耳に残る曲が多いです。
その手のものが付かないのがここのゲームの恒例とはいえ、鑑賞モードが無いのが残念でした。

また、音楽や効果音、背景グラフィック等が単なる演出ではなくそれすらも謎解きに絡めてきているのは驚き。
テキストのみに注目して詰まっているところで、考えを広げて音や絵に注目する解法を思いついたときはそんなところにまで謎を仕込んだことに感心することしきりでした。

<システム>

自転車創業のゲームを語る上で絶対に外せないのはその独特のシステム。

Advanced Novel Operation System = ANOSと呼ばれるそのシステムは、無限に戻れる上にどこからでも再開可能なバックログ機能と、物語中の特定のキーワードを格納しそれを「記憶管理モード」で主人公に思い出させる機能をもっています。

ストーリー上で障害に突き当たった際は記憶管理モードを起動してそれを切り抜けるのに必要な記憶を主人公に「思い出させ」、それでも駄目な場合は任意の場所まで遡って必要な記憶を手に入れる。
この繰り返しで物語を進めていくことになります。

いくらでも戻れ、いくらでも繰り返せるこのシステムにおいて従来の「選択肢」はほとんど意味を持ちません。
普通のマルチエンディング式ノベルゲームが、ひとつのスタートから幾つものゴールにたどり着く樹形図だとしたら、「ロストカラーズ」は細かい繰り返しの円環の連なりとでもいいましょうか。

そして常に「現在の状態」しか存在しないため、セーブも一つのみ。
既読の文章上を自由に行き来できるシステムで過去のセーブからやり直すなんてことは無意味ですからね。

とにかく相当に独特なシステムなので、普通のノベルゲーになれた人には最初はとっつき難いかもしれません。
一度進め方が判ってしまえば使いこなすのはそれほど難しいことではないんですけど。

そして特筆すべきはストーリーの項でも書いたとおり、単なる変わったシステムというだけではなくそれをストーリーと完璧に融合させているところ。
「ループ物」である物語の内容に見事にマッチしていました。

<総括>

まさにノベルゲームだからこそ、このANOSシステムだからこそ実現できた物語
プレイヤーが何度も物語を繰り返すことに構成上の意味がある以上、これ以外の媒体で表現するのは不可能だと思います。
ある意味ノベルゲーの極北に位置する作品といえるでしょう。

そして、今回の記事では謎解きやシステムのことばかり述べていますけど、肝心のお話自体も短いながらも中身の濃い内容です。
単純に色を元に戻すまでの期間限定の協力関係だったはずの主人公とスフライトの関係の変遷や、国家のための人殺し = "カラーズ"討伐を何の疑いも持たず淡々とこなしていた快楽殺人者な主人公の変わりようなどは結構見ものでした。


紙芝居ノベルゲーに飽きた方、歯ごたえのある謎解きを求める方にはぜひどうぞ。
逆に、手っ取り早く「物語」のみを消費しようという方にはあまりお薦めできませんね。
何度も言いますが解く過程にこそ意味があるゲームですので