空の浮動産

自転車創業 製作

※このゲームは全年齢対象の一般ゲームです


評価方針のところでも書いていますが、俺は叙述トリックやメタ視点などを使って巧妙に伏線が張り巡らされたお話が大好きです。
読んでいる途中でなんとなく伏線っぽいところがあったりするとそこから果てしなく妄想が広がっていくこともしばしば。
まぁ、大体の場合そうやって先を読もうとして失敗するんですが。

Advanced Novel Operation System version2(チュートリアル閲覧復習式伏線回収システム 通称ANOS2)という長ったらしい名前のシステムを搭載したこの「空の浮動産」
メーカーサイトの説明は”リトライ不要のシステムで物語を自在に辿り直し、それによって伏線を回収しながら物語を先に進めて行きます”というもの。

・・・もうこれはやるしかないでしょう。
そんなわけで空の浮動産レビューです。

<ストーリー>

昭和74年。
新元素"Ma"の発見により魔法が発明されていたが、結局一過性のブームとされ誰も魔法に見向きもしなくなっていた頃。

主人公夏辺 水華は晴れて穂積大学の法学部に合格、大学生となった、そのはずだった。
しかし彼女の入学した"法学部"とは、じつは魔法を教える"魔法学部"だったのだ。

転学部を試みる彼女だが、それは法学部唯一の雇われ講師にして重力制御魔法"浮動産登記法"の権威花水木 秋駿によってあっけなく阻止されてしまう。

不満を抱えながらも仕方なく"法学部"の授業を受ける事になる水華

水華の中学時代の同級生にして法学部の2人きりの新入生の片割れ織絵 冬星と共に始まった学園生活は、法学部唯一の上級生春川 春菜、そして奇人講師花水木も交えて彼女の思惑をよそに進んでいく。

花水木の野望。春菜の想い。冬星の真実。他の3人をよそに何も考えていない水華(笑)

そんな学生3人と講師1人だけの法学部の、ひと夏の物語。




ストーリー紹介はこんな感じ。
舞台設定だけ見ればいわゆる「魔法学園」ものなんですけど、一筋縄ではいかない独特の世界観が素敵でした。
「浮動産登記法」を初めとして6つの体系に分かれているため"六法"(笑)と呼ばれる魔法体系とか、魔法の発動は元素Maを酸化することによって行なうとか、法律の条文ライクな詠唱とか。
癖はありますが好きな人にはたまらないのではないかと。

少なくとも俺はこれ大好きです。

その中でもやはり一番異彩を放つのは魔法の詠唱。
なんといっても全てに先立つ魔力召喚呪文が
「浮動産登記法一章一条登記シタル魔力ニ関スル設定保存移転変更登記処分ノ制限若シクハ消滅ニ付キ之ヲ為ス其ノ魔力登記法ニ従イ彼ノ地ヨリ此ノ地ヘ発生スル事ヲ命ズ」

このほかの魔法の詠唱もみんなこんな感じ。条文萌え。
物語中で魔法使い(というにはだいぶ語弊がある気もします)同士の戦闘シーンがあるのですが、ノリのいい音楽とともに双方が上のような詠唱をして戦う様は妙に格好良かったです。

また、こういった独自色の強い世界観の場合設定の説明がくどくなったりしがちですが、システムの項で後述するように何度も違う選択肢を選びなおすことを前提にしているのかいろいろなルートで少しずつ設定の説明をしているため、くだくだと「魔法とは何か」みたいなことを語られてなかなか話が先に進まないなんてことがないのは良いのではないかと。

これには主人公が魔法より腕力!!な人物であることも関係しているのでしょうけど。


しかし欠点もあります。
上述のように独特な世界観を構築することには成功しているのですが、そういったものを取り払って話の流れだけを見ると出来の悪いライトノベルみたいなんですよね。
各キャラクターの行動原理が薄っぺらくしか描写されないので、なぜその時そこでそういう行動に走るのかがいまいち腑に落ちないのですよ。
おかげで終盤いわゆる「燃える」展開に持っていこうとしているのはわかるのですがいまいちそれに乗り切れませんでした。

このあたりが何とかなっていればさらに面白かったんですけどね・・・

<キャラクター>

夏辺 水華

主人公。名前の読みはみずか。「すいか」と呼ばれると非常に怒る。
性格は非常に勝ち気で、理屈よりは脊椎反射で行動するタイプ。一言で言えば女ジャ○アン。

冬星に対しての対応で「とりあえず殴る」とかいう選択肢が出てきたときは笑いました。
しかも殴ったほうがいいし。

織絵 冬星

読みは「おりえ とうじ」誰が読めるかこんなの。
水華の中学時代の同級生にして"法学部"に水華とともに入学することになる。
東大も楽勝で入れるくらいの頭のある彼がわざわざこんな大学の寂れた"法学部"に入学したのは何か目的があるようなのだが・・・

黒ずくめの上に黒のロングコート、まさに魔法使い然とした見かけで中身もその通り魔法使いな彼ですが物語中では水華の犠牲になってばかり。
なんたって「冬星の胸倉をつかむ水華と持ち上げられてる冬星」「水華に張り倒されてる冬星」という専用の立ち絵が存在しますからね。

花水木 秋駿

主人公達が入学した"法学部"の唯一の雇われ講師にして重力制御魔法「浮動産登記法」の権威。
といっても重苦しいところは一切無く、へんてこな行動で他人を惑わすのに全力を注げるタイプ。
疎まれつつも「浮動産登記法」の完成にかける情熱の裏には何が隠されているのかは誰も知らない。

ていうか、ぶっちゃけただの奇人。

ストーリーの項で書いた行動原理が腑に落ちない場合の最たるのがこの花水木ですね。
マッドサイエンティストなのは分かりますが何でそこでそういう行動に走るかと。
そりゃ変人だからと言われてしまえば身も蓋もないのですがね・・・

春川 春菜

"法学部"の唯一の上級生。花水木に心酔しており、事あるごと花水木につっかかる主人公とたびたび対決することに。
「魔法の春菜」VS「腕力の水華」の戦闘シーンは見ものです。

この人も花水木に心酔しているのはわかるんですけど、いまいちその理由がはっきりしないというか理由付けが薄くどうしてそこまで尽くせるのか疑問を抱いてしまうのですよね・・・
おかげで終盤の急展開にいまいち付いていけませんでした。

あと、あの野暮ったい女子高生みたいな見かけは何とかならんのか。

<グラフィック・音楽>

グラフィックは、非常に形容しがたいのですがとりあえず一般的なギャルゲー&エロゲーの絵柄とはかけ離れていることはもちろん(そもそもそういう類の話ではないですし)いわゆる"ゲーム"の絵柄ともだいぶ異なる独特なものです。
○○みたいと簡単に形容する方法がないかかなり悩んだんですけど結局思いつかず。オフィシャルサイト見るのが一番ですね。



音楽はというと…
一言で言えばしょぼすぎ。
いまどきFM音源なので仕方がないといえば仕方ないのですけどファミコンのBGMみたいな音楽は聞いててほんと萎えました。
といってもさすがに音楽なしでは寂しすぎるので音楽ONにしてましたが最後まで慣れられませんでした。

<システム>

いつも大して書くことがなくて困るこの項目ですが今回は違います。

最初にも書きましたが、このゲームの魅力の一つ(というか大部分)はその独特のシステム。
バックログ上の任意の地点から再開可能な上にセーブは一箇所しか出来ないので、進行に詰まったらさかのぼって選択肢を選びなおしてまた詰まった地点まで早送りで進行、の繰り返しで進んでいきます。
これだけだと単なる総当りで終わってしまいそうに思えますが、「物語中で出てきたキーワードを主人子に思い出させるシステム」(正式名称忘れた)がそれにひねりを加えています。

ストーリーを進めていくと文章中に色付きで表示される単語が時折出現し、蓄積されたそれらの単語を主人公に思い出させて状況を切り抜けさせていくのですが、主人公は腕力バカなので一度に一つの単語しか思い出せません。
そこでプレイヤーたるこちらがその場その場に応じたキーワードを選択してあげるというわけです。

これら二つを組み合わせることにより、さかのぼっていろいろな選択肢を選ぶことによってキーワード収集→適切なキーワードを思い出させて状況を切り抜ける、の繰り返しによって進んでいきます。
いうなれば、普通はキャラクター自身が伏線としてそれ以前に語られていた事柄を思い出すところをプレイヤーに代行させているということですね。

文章だけだと無味乾燥に思えるかもしれませんが、やって見るとこれがかなり面白いんですよ。
よく「パズルのピースがはまるように全ての伏線が繋がった」なんて描写がありますけど、このゲームを場合それを実現するのはプレイヤー自身ですからね。
終盤、2〜3行読み進めるたびに思い出させるキーワードを切り替えねばならないシーンで全て正解を選んで一発でその状況を見事に切り抜けたときは鳥肌が立ちましたよ。

このゲームに関しては攻略サイトなどを見るのはまさに愚の骨頂、自分で解かないと面白みが激減だと思います。

<総括>

世界観かシステムが気に入ったなら買い。これに尽きます。

既存の紙芝居ノベルゲームのシステムに物足りなさを感じている人、伏線を張るだけ張っておいてろくに回収されない物語に怒りを覚える人、条文に萌えられる人。
こんな人たちにとってはこの上ない良作に成りえますが、そうでないと妙に難易度が高いくせにへたれ絵にしょぼい音楽、薄いストーリーの大した事の無いゲームになってしまうのですよね。

個人的にはこの世界観とシステムは物凄く好みなんですけどね…
良くも悪くも「画期的なシステムに挑戦したゲーム」の範疇から脱しきれていないというのが正直な感想でした。