「方針と評価基準」の所でも書いていますが、俺は基本的に単純なハッピーエンドより何かしら救いのない話や暗い話のほうが好きだったりします。
また、単純なノベルゲームより演出やシステムに凝った作品のほうがどちらかといえば好みです。
この「serial experiments lain」はやたら斬新なシステムらしいのと、「精神的に弱い人がやると自殺したくなるゲーム」なんて評されているのをネット上で見て欲しいと思ってはいたものの、既に5年前のゲーム(執筆時点より)なのであきらめていたところでした。
が、帰省して何気なく入った実家近くのゲーム屋で叩き売られているのを発見して即購入。
買った当初はプレイしづらいシステムのなんだかよく判らない話だなぁ、と言った程度の感想しか抱いていなかったんですが………あははははははははははははははは
…それでは、気を取り直してserial experiments lainレビューです。
しかしこれ登場キャラクターがほぼ全て女性なので「ギャルゲー/エロゲー」の項に入れてるけど、どう考えてもそんなゲームじゃないよなぁ。
プレイステーションをたち上げると、最初に現れるのはパソコン風のOS起動画面。
プレイヤーはそこからネットワークに接続し、インターフェースに現れた少女に指示をして、インターフェース内にちらばる14才の少女、岩倉玲音(いわくられいん)についてのデータを集めます。
豊富な映像データ、音声データに収録された玲音、そしてその少女に関わる人々の生生しい感情や、現実と虚構の入り乱れた断片的な事実を収録したデータに刺激され、混乱しながらも、近付いていくのです。
彼女に関わる秘密に・・・。
(公式サイトより)
まず言っておくと、これは「ゲーム」とはとても言えたものではありません。
起動すると画面に現れるのはネットワーク上の各種データを表すオブジェと、それを再生するインターフェースとなる少女風のキャラクターのみ。
プレイヤーのすることといえばカーソルをデータにあわせて再生する、たったそれだけ。
どちらかと言えば「断片的なサウンドノベル(しかもストーリーは一本道)」といった表現がしっくり来るかと思います。
が、そんな事はこの作品の価値をなんら貶めるものではありません。
玲音の日記、玲音を撮影した映像、担当カウンセラー柊子との会話記録、柊子による玲音のカウンセリングカルテ等の多種多様な断片的データをプレイヤー自らが再生していく事により、結果として一つの物語が出来上がると言う構成はなかなか斬新かと。
ネットワーク上に散逸したデータを集めると言う舞台設定や、プレイヤーがなぜ玲音についてのデータを集めなければならないのかと言う事まで絡めてストーリーとシステムが完璧に融合しているのは素直に褒められるところでしょう。
……それが結果として「ストレスのたまるゲームシステム」「非常に判りづらいストーリー」を生み出してしまっているのは皮肉としか言いようが無いですけど。
また、上で「精神的に弱い人がやると自殺したくなるゲーム」と書きましたが、この言葉が本気で洒落になっていません。
ネタばれになるのであまり詳しくは書けませんけど「自分では正常のつもりのおかしい人」をああも見事にやられると実に辛いです。
普通の常識人だったのが、ちょっとした出来事の積み重ねから変容していく様は真に迫りすぎて怖かったですよ。
と言っても登場人物二人しかいないんですけど…
内向的な性格の少女。
軽度の幻聴と幻視に悩まされており、それがきっかけでカウンセラー柊子の元へ通いだした事からこの物語が始まる。
実はかなり優秀であり、特にコンピューター関連で能力を発揮する事になる。
柊子の勧めに従って日記をつけることになり、その「玲音の日記」のデータが全体のうちのかなりの割合を占めています。
友達とどうしたとか好きな男の子についてとかありふれた少女の日記以上のものではなかった「玲音の日記」も、物語が進むにつれてだんだんと……
27才。玲音を担当するカウンセラー。
アメリカの大学院を卒業後帰国後、すぐにこの仕事を始めたばかりの新人。
前向きで明るい。玲音の心を開かせようと色々と試みるなど、仕事に対して真面目。
カウンセリング記録の玲音との会話の様子や、玲音のカルテなどの冷静な様子と自分の日記でのはっちゃけぶりのギャップが素敵な大人のお姉さん。
カウンセリングでは玲音に対して平静に振舞っている彼女も、自分の研究や恋人との関係で様々な問題を抱えていたり。
中盤以降それら問題が顕在化してからの柊子さんといったらもう(涙
キャラクターデザインは安部吉俊氏
このゲームの一種独特な雰囲気に合った絵柄だと思います。
が、既に書いたとおりひたすらデータを再生し続けるだけのゲームな上、全データの8〜9割は音声データなので絵の出番はほとんどありません。
ごくまれに音声データ再生の際の背景として、いわゆる「イベント絵」的な一枚絵CGが表示される事がありますが本当に稀なことですし。
音楽もデータを探すシーンのオルゴール曲とエンディングムービーの曲の計2曲しかないので、プレイ中は延々と同じ曲を聴き続けることになります(データ再生の際は音楽は切れます)
曲単体で見ればそれほど悪い出来ではないはずなんですが、あまりに長時間聞き続けたせいで終盤は例のオルゴール曲聞くだけで気持ち悪くなってきそうでした。
「ネットワーク上に散逸した『岩倉玲音』のデータを収集する」と言う行為を再現すべく、縦長の円筒の表面に配置したかのように並んでいるデータ群にカーソルを合わせて再生すると言うのが基本のシステム。
というかそれ以外やることはありません。
画面向かって下から上へ時系列順に並んでいるのでそのまま時系列を追って再生するもよし、各データごとに付与された3つのキーワードから同じキーワードが付与されたデータにジャンプするというインターネットにおけるリンク的機能をつかって関連するデータをまとめて再生するもよし。
再生する順番の制限はほとんど存在せず、物語を組み立てるのは全てプレイヤーに委ねられています。
しかし、ネットワーク上でデータを探す事の難しさの表現なのか、それともPSの処理能力の限界なのか(おそらく両方かと思われます)異常なほど操作レスポンスが悪いのは文句なしにこのゲームの悪い点。
何らかの操作を行ってから最短で2〜3秒、長いときは10秒近くたってからでないと反応が無いのはいくらなんでもひどすぎですよ。
これさえ何とかなれば、ストーリーの難解さと鬱っぷりはおいておくとしても「斬新な構成&システムのゲーム」として手放しで評価できるんですけど……
普通にプレイするにはまずあの操作感に慣れないといけないので、最初のハードルが高いと言えます。
最初に「ゲームとは言えない」なんて事を書いておいてなんですが、それを言ったら世にあふれるノベルゲームたちもやってることは文章読みすすめて選択肢選んでいるだけなので同じようなもの。
そういう意味ではストーリーの断片をばらまき、それを読み手側で再構成させるというserial experiments lainの手法はこの手の「ゲーム」におけるストーリーテリングの新しい地平を開いたと言えるかもしれません。
が、システムの項で取り上げた異常なまでの操作レスポンスの悪さ、結局何が起こったのか理解しがたい難解なシナリオ、狂気の世界へ誘われる終盤の展開(徹夜でやったら本気で精神的平衡を失いかけました)等々の悪い点が数多くある事もまた確か。
陰鬱な雰囲気の話が好きな人や、構成に凝ったお話が好きな人以外にはお勧めできないゲームですね。
…それ以前に本稿の執筆現在(2005/12)ではかなりのレアソフトになりつつあるので、プレイしようと思ってもそうそう手に入るものではないでしょうけど。
それと、最後に一つ。
これからプレイしようという人が居たら、ぜひ開始直後の名前入力は本名(出来れば下の名前)でやるべきです。
理由はクリアしてのお楽しみ。