PrincessSoft 製作
このゲームは全年齢対象の一般ゲームです
……が、せめて15禁くらいにはした方がいいと心から思いました(PS2版は15歳以上推奨)
PC一般ゲーム、それもSLGやFPSなどではなく全年齢向けのAVGはPC18禁ゲームに比べかなり小さい市場です。
この「F 〜ファナティック〜」もそんな人知れず発売されていくことの多い全年齢向けPCギャルゲー。
一応ほんのちょっとだけ雑誌か何かで目にしたことはあったものの、「人はなぜ人を好きになるのでしょうか?」というあまりにベタ過ぎるキャッチコピーにそこらの薄っぺらいゲームだろうと判断して頭から消去。
それ以来すっかり忘れていたのですが、巡回先のサイトで原画の成瀬ちさと氏の可愛らしい絵柄からは想像もつかないくらい悲劇的なお話だということを知り俄然やる気になって購入となりました。
さて、その実態とは?
それでは「F 〜ファナティック〜」レビューです。
(余談ですが、上記の『雑誌で読んで存在を知るもどうでもいいゲームだと思っていたら巡回先で褒められていて購入』という流れはシンフォニック=レインの時と全く一緒です。
それこそ知った元である雑誌と紹介していた巡回先サイトまで同じくらい。なんというか進歩がないですね俺。)
───それはファナティック。
愛ゆえの狂信。
時は19世紀末。
科学が一挙に花開くと共に、一方では未だ迷信的なオカルトが力を保っている……
そんな幻想の世界。
タブロイド紙「デイリーロンドン」の記者見習いである主人公ウィルは、見知らぬ女性が惨殺される夢を見るようになっていた。
そんな最中、街を騒がす連続殺人鬼、通称「ジャック・ザ・リッパー」の事件をひょんな成り行きから追い始めるようになる。
ジャックによって次々と惨殺される女性達。終わることのない悪夢。
彼が出会う「闇」はどんどん深くなっていく。
「デイリーロンドン」編集長の娘であり、主人公の幼馴染であるカレン。
主人公の下宿の大家の娘、アリシア。
ジャックを追う中貧民街で出会うスリの少女アーニー、事件を追う主人公に怪しげな助言を与えるロマニーの占い師リサ。
そして、殺人現場に常に現れる、血まみれの「白い少女」
やがて魔手はこれら主人公の周りの女性達へも及んでいくことに……
ウィルはリッパーを追い詰めることができるのか?
そして、彼女達を繰り返される悲劇から救うことは出来るのか?
現実と架空の存在が入り混じる幻想の倫敦を舞台に、今、鮮血と暗黒に染まる切ない恋物語の幕が開く。
(オフィシャルサイトより一部引用)
「鮮血と暗黒に染まる」と自称しているのは伊達じゃないです。フラン(白い少女)とか血まみれになりすぎ。(専用立ち絵まであり)そして一部ルートの終盤はまさに暗黒。
上の紹介文を見ると「切り裂きジャック」をモチーフにしたサスペンスストーリーのように思えますが、本題は全く別のお話です。
fanatic(熱狂的な、狂信者)のタイトルがまさにぴったりな悲しくも狂おしい想いが引き起こした悲劇と、それを防ぐべく運命に立ち向かう主人公の物語。
連続殺人事件はあくまでも結果として起こった事の一つであって、本題は全く別のところにありますね。
上で「繰り返される悲劇」と書いた通りどのヒロインのルートでも主人公の必死の努力にもかかわらずそれはもう本当に悲惨な結末が待っており、そして全てのヒロインのルートをクリアすると出現するトゥルールートで救済が……と思えば今までより多少の改善はあったものの結局は努力の甲斐なくまた繰り返される悲劇。
ここまで徹底してやってくれると逆にすがすがしいです。
普通にハッピーエンドが待っているものと思っていた俺は開いた口がふさがりませんでしたよ。
無論これで終わりということは無くさらに出現する新ルートできちんと全てを解決してくれるのですが、このネタばらしと救済の部分を分けているのは個人的には好きです。
冗長になってしまっている面があるにしてもプレイヤーにすらこれはどうやっても悲劇的な結末を回避できないのではないかと思わせるあの展開は素敵過ぎ。
俺は真相を知るにつれ果たしてこれで全員救済なんて可能なのかと本気で疑いましたもの。
残念なのは一部においてかなり強引な展開が見られること。
具体的にどうと明示するのはなかなか難しいのですが、特に主人公の事件の調査と悲劇を回避するために奔走する過程において物語を進めることを重視するあまり不自然というか周りの人はどうしてこいつの行動につっこまないんだろうと言いたくなる行動をさせているのが少々気になりました。
ファンタジーな世界観だからといって登場人物の頭の中まで少々ファンタジーなのはいけないと思うのですよ。
血まみれで記憶喪失の女の子を突然家に連れて帰ってきたらもっと驚けよみんな。
また、「悲しい結末を繰り返す」事に全体の構成上意味があるので仕方がないといえば仕方がないのですが、一部無理やりそういう方向に話を持っていった感があるのは少々いただけないですね。
かなり理不尽に悲劇的結末に持っていかれるためどうしても「悲劇のための悲劇」という感じがしてしまい、感情移入がそがれる場面もありました。
主人公。タブロイド紙「デイリーロンドン」の記者見習い。
ギャルゲ主人公らしく鈍感で朴念仁、というかカレン&フランルートのときの彼の鈍感ぶりはもはや罪。カレンが可哀想です。
そのくせ年下(アリシア、アーニー)には妙に態度が大きかったり、事あるごとにミリアさんミリアさんミリアさんと連発して何気に年上好き&マザコンっぷりをアピールしたりとなかなか素敵な奴でした。
(ミリアさんは主人公の下宿の大家でアリシアの母親 孤児である主人公は彼女の事を『本当の母親のように思っている』そうです)
以下クリア順にヒロイン達を紹介。力の入れ方が違うのは仕様です。
主人公の勤める新聞社「デイリーロンドン」編集長の娘であり、主人公と一緒の下宿に住む幼馴染。
居候であるウィルをできの悪い弟のように思い、いじめながらもいとおしく思っている…らしいです。
「見た目はお嬢様なのになんであんなに気が強いんだろう」とは主人公談。
文句なしのメインヒロインであり、物語の根幹をなす部分に密接に関わっている人物。
主人公を毎朝起こしに来てみたり、ジャックの取材で危険な目に合わないかと主人公の身を案じてみたり、かと思えば取材の過程で主人公の周りに現れる女性達に嫉妬してみたりと勝気な幼馴染を地で行く彼女ですがそんな彼女にもジャックの魔の手が…
最初にクリアしたのがカレンルートだったのですが、どう考えてもバッドエンドとしか思えない終わり方には泣きたくなりました。なんだよあれ。
ジャックの殺人現場に出没する謎の少女。白い肌、白い髪に白ずくめの衣装というその姿はまさに「白い少女」という形容がふさわしい。
常に厳しい表情を崩さず、謎めいた雰囲気をまとう彼女とジャックとの関係とは?
と、言うのはカレン&フランルート以外でのお話。
カレン&フランルートでは訳あって記憶喪失+幼児退行で普段の怜悧な雰囲気は何処へやら、主人公にベタベタまとわりつく甘えん坊に。
「ウィルといっしょにねるーーー」とか雰囲気変わりすぎですからあなた。
幼児退行モード中の声優さんの演技は神 通常フランと同じ人がやっているとはとてもじゃないが信じられません。
カレンと並ぶメインヒロイン格であり、カレン&フランルートでは連続殺人事件を起こすきっかけとなったおおもとの事件に迫ることになります。
主人公の下宿の大家であるミリアさんの娘。生まれつき体が弱く、床に伏せる日々が続いている。
外にあまり出られないため友達が少なく、主人公の事を「お兄ちゃん」と呼んでなついている。
……19世紀末イギリスでいくら仲がいいとはいえ血縁でない年上の男性をお兄ちゃん呼ばわりするのはありなんですか?
というか英語で「お兄ちゃん(はぁと)」(呼びかけ)ってなんて言えばいいんですか?
物語全ての根幹となった事件に関わってくるのがカレン&フランルート、その影響のひとつとして起こっている連続殺人事件「切り裂きジャック」の真実に迫るのが後述のアーニー&リサルートだとしたらそのどちらにも属さないもうひとつの「fanatic」の物語がこのアリシアルート。
ストーリー紹介の冒頭で引用したのもアリシアルートでの言葉です。
病気が悪化して死んじゃうなんてのがマシに思えてくるあの結末は痛すぎ。
主人公がジャックを追う取材の過程で訪れた貧民街で出会う男装のスリ少女。
貧民街のガイドを買って出た彼女と共に主人公はジャックの足取りを追うのだが、そんな彼女にも殺人鬼の魔の手が迫ることに……
マニュアル・オフィシャルサイト等のキャラ紹介で壮絶に女の子だとばれてるのに物語中の主人公の認識では少年と認識されている期間がかなり長く続くのはちょっと違和感が。
ていうか抱きつかれてドキドキとか普通に読んでたけど、よく考えたらその時点ではお前アーニーのこと少年だと思ってるじゃないかウィリアムーーーー!!!
「切り裂きジャック」の正体や犯行動機に迫ることによってカレン&フランルートでは単なる悪役だったジャックなりの「fanatic」に迫るのがアーニー&リサルートであり、それは十分成功していると言えるのですがあまりにも話が大きくなりすぎです。ちょっとついていけなかったですよ。
そして(設定上)ほうっておいても悲劇に巻き込まれる恐れのあるカレンやフラン、アリシアと違ってこの人やリサの場合主人公と関わったばかりに酷いことに巻き込まれている気がします、というかそうとしか思えないです。
罪な奴だなウィリアム。
ジャックを追う主人公に助言を与える怪しげなロマニーの占い師。
実は本物の霊感をもっており、その力をもって事件の真相に迫っていくことに。
ありふれた日常の裏側の世界の住人と、ふとしたきっかけでそちら側に首を突っ込んでしまった主人公というのはなかなか個人的に好みなんですが、基本的にアーニールートと終盤以外はほとんど話が同じなのでいかんせん描写不足は否めなかったです。
主人公と共闘するシーンなんかがもっとあれば良かったんですけどね。
なるちー絵でグロ。これ最強。
プロローグの切り裂きジャックによる娼婦解体や中盤のジャックの被害者達の惨殺死体は本気でトラウマになりました。
そんなのにCGつけないで下さい(泣
…と、そんなことは置いておいて、成瀬ちさと氏によるキャラクター達は普通に可愛らしいです。
表情パターンと姿勢パターンの組み合わせによりかなり多くの立ち絵パターンがあるのは良かったですね。
さして目新しい方法というわけではありませんが、同じ「困惑」「照れ」「怒り」等の状況に対応する絵が一枚だけでないというのはやはりいろいろ表現の幅が広がるかと。
…カレンの困惑顔+お手上げポーズが変な踊りみたいに見えるとかアリシアの笑顔+ばんざいが雨乞いでもしてるみたいだとか組み合わせ間違ってるんじゃないかと思えるのもありましたが。
音楽はOPムービーの曲とタイトルバックの曲がやたらクオリティが高かったので本編もこのレベルかと期待していたら普通のギャルゲーサウンドでがっかりでした。
特に可もなく不可もなくというところでしょう。
ディスクレス起動は不可、仮想ドライブソフトがインストールされていると(ディスクを入れていても)起動しないなどプレイ以外の面で不便な点はありますがそのほかは十分満足できる出来。
一度選んだ選択肢や既読文章の色変え機能は便利でした。
また、CG閲覧モードとは別に回想モードがついており、エロゲじゃないのにこれはどうしたことかと思っていたら各キャラルートの終盤からが章タイトル(?)と共に登録されるようで。
何気にメインじゃないエンディングが多いので回想モードの埋まり具合でその辺りが判断できたのは良かった、というかこれがなかったら気付かないままスルーしていたのではないかと思えるくらい入りにくいルートがありましたからね。
それとCG閲覧モードでサムネイルを選択するとそのCGのタイトルが表示されるのですが、それが「惨殺死体1」「○○(キャラ名)の頚動脈掻き切り」とか身も蓋もなさ過ぎる題名の付け方なのはちょっと萎えました。
もう少し考えようよ。
あくまでもサスペンス的要素は添え物で、中身は普通のギャルゲだと思っていた俺の予想をいい意味でも悪い意味でも裏切ってくれました。
男女や親子のあいだでのまさに「fanatic」な愛情の引き起こす悲劇の物語。
「個別ルートで悲劇的な結末→ヒロインごとの個別ルートを全てクリアすると出現する真ルートで救済」という構成はもはやエロゲーギャルゲーの定番となりつつある感もありますが、上で書いたようにカレン&フランルート、アリシアルート、リサ&アーニールートの3つの違ったアプローチから「fanatic」な愛情を描くというかたちで全体をひとつの物語としてまとめているのは評価できるかと。
ここまででさんざんネタにした猟奇描写も悲劇をより引き立たせる上では必要なものであり、あれがなかったらだいぶ衝撃が薄れてしまうと思います。個人的にはトラウマになりかけたので嫌いですが。
ぬるい日常がだらだら続くそこらの萌えゲーには飽き飽きしたけど、かといって完全な鬱ゲーはちょっと……という人にもってこいのゲームでしたね。