イルマリ・ユーティライネン著 梅本 弘訳
(小さな戦闘機隊の大きな戦果)
実戦機は第二次世界大戦を通して常に200機前後、最も激しい戦いが行なわれた1944年においても年間の損害は90機と万の単位で航空機を損耗していった主要交戦国たちと比べるとまるで玩具のようなフィンランド空軍戦闘機隊。
しかし、彼らこそが戦争の全期間を通じて制空権確保に全力を尽くし、フィンランドとソ連の戦争を陰で支えた立役者なのです。
この本はそんなフィンランド空軍戦闘機隊のエリート部隊である飛行第24戦隊に所属していたあるパイロットの回想記です。
著者のイルマリ・ユーティライネン氏はフォッケルD21、ブルースターB239「バッファロー」、Bf109G2/G6に搭乗して戦争を戦い抜き、公認撃墜数94機、フィンランド軍最高の勲章であるマンネルヘイム十字章を2回授与されている正真正銘のエースパイロット。
(ちなみにフィンランド軍内でマンネルヘイム十字章を2回授与されているのはわずか4名のみ)
彼の経験談を通して、日本ではほとんど知られていないフィンランド空軍の勇戦ぶりが実に克明に語られています。
とはいっても自らの功績を殊更に誇ることはなく、全編にわたってユーモラスな語り口が続くため読んでいる間はとてもそんな偉大なパイロットが書いているようには思えません。
戦争前半には天候が悪いと飛行機を放り出して近くの森に狩りに行ったりしたりと著者どころかフィンランド軍自体が実に牧歌的です。
戦争も後半に入るとソ連空軍の物量攻勢の前にそんなことをしている暇はなくなってしまいますが。
またひときわ際立つのがフィンランド軍とソ連軍のパイロットの技量の開きです。
著者は敵戦闘機からの銃弾を一度も受けたことがない程の凄腕パイロットなので(防御機銃や高射砲からは被弾してます)2対1や3対1の状況からしょっちゅう生還しているのは当然ともいえますが、編隊戦闘においても機数において明らかに優勢なソ連軍と戦って自軍の損害0で帰還という状況が頻発。
兵力比2倍や3倍は当たり前、ひどい時など5倍(13対60)なんてこともあります。
著者の所属していた飛行第24戦隊の戦争全期間における彼我の損害比約20:1(撃墜875機、損害43機)なんて冗談みたいです。
フィンランド空軍全体でも損害比13:1(撃墜1673機、損害120機)
まさに「量のソ連空軍」VS「質のフィンランド空軍」という構図が当てはまりますね。
内容にあまり関係ないですが、この本を読んでどうして世のミリタリーマニアに「ソ連空軍ファン」がほとんど居ないのかわかったような気がしますよ。