ヘンリー境田 高木 晃治 共著
(日米双方の膨大な資料で書き出される三四三空の姿)
太平洋戦争末期の日本海軍航空隊を語るにあたっては、三四三空は外せないものの一つなのではないでしょうか。
この本はそんな三四三空の創設から終焉までを、日米双方の豊富な証言を集めたどった本です。
既に三四三空について述べた書籍は余りあるのにいまさら何を述べるのか、と思う向きもあるかもしれませんが、タイトルにある「米軍が見た」の通りこの本では日本側の部隊員の証言のみならず、米軍パイロットの証言や米軍の記録にも手を広げています。
これは原著がイギリスで出版されたものだということも影響しているでしょう。
えてして日本人著者の場合日本側の証言に偏りがちですが、これにおいてはそういったことは全くありませんでした。
それも日本側の証言に交えてほんの少し手を出すなどという程度ではなく、米軍パイロットの証言をかなりの量収録し、交戦記録にいたっては現存する日米双方の記録を付き合わせ「このとき○○と交戦したのは空母○○所属の○○飛行隊」ということを特定。
記録が残っていて割り出すことが可能であれば「誰の機体を誰が撃墜したか」ということまで述べているのは驚きでした。
大規模出撃の際は戦闘詳報から抜粋した搭乗員名と搭乗機番なども掲載されています。
また、三四三空といえば1945年3月19日の松山上空での迎撃戦闘が有名ですが、それ以外の特攻機援護のための奄美大島・喜界島上空の制空出撃、九州に飛来したB-29相手の迎撃戦闘、九州近海に進出してきた米軍哨戒飛行艇の掃討といった戦闘もかなり詳しく述べられています。
緒戦の大戦果から、次第に米軍の物量に押されて消耗していく様が克明に描かれていました。
それと上記のように日米双方の記録にあたって交戦状況を記述しているのですが、日米ともに自称している撃墜戦果より、実際の被撃墜機数がかなり少ないこともまた驚きでした。
例に挙げると有名な1945年3月19日の松山上空の迎撃戦では、三四三空の戦果が撃墜57機(うち地上砲火により5機)、米軍側の戦果の合計が撃墜50機となっているのに対し実際の損害は米軍21機、三四三空15機。
これ以外の戦闘においても言われている撃墜戦果は実際の損害状況と比べると過大である事が多く、乱戦の中での戦果確認がいかに難しいことかということが良くわかります。
よくある個人的回想録などと違った大量の資料を裏づけとした極力客観的な語り口は、三四三空の沿革を総合的にたどるのにぴったりなのではないかと思いました。