モリソンの太平洋海戦史

サミュエル・E・モリソン著
(アメリカ側の立場に立った戦史はまた違った視点で面白いです)

「歴史」その中でも特に「戦史」というのは何を主体にしてどういった視点で語るかによって全く内容が違ってくるものです。

この本ははそんな戦史書の中でも太平洋戦争中の海戦をアメリカ側の視点に立って語っていったものです。
徹頭徹尾アメリカ側の立場から書かれているため、目だったところでは海戦の公式名称が日本での呼称と違ったり (例:サボ島海戦=第一次ソロモン海戦)真珠湾攻撃の経緯などで少し首を傾げるところがあったり、そのほかにも 読み慣れた日本側の立場から記述した戦史とは一風変わった記事が多くなかなか面白いです。

結局のところ毎回勝利を収めているのですが、敵である日本軍の戦力をかなり高く評価しがちであるため楽勝を繰り返したという感じはないですね。
日本側の戦史を読むととてもそうとは思えないんですけど。

この辺の記述の相違も、詳しい人が読めばもっと楽しめるのではないかと。
俺はそこまで海戦史に造詣が深くなく、これを読んではじめて知る海戦などもあったため日米の記述の相違などを検証することが出来なかったのは残念でした。

翻訳の元となった本が発行されたのが1963年な為、「自由と正義のために戦うアメリカ軍に栄光あれ!」というノリで記述が進むのが時代を感じさせてくれましたね。


難点としては翻訳がかなりひどいこと。(特に序盤)
ひどいと言っても、読みづらい文章などというものではなく英単語を訳さずにそのままカタカナ英語として使っている箇所が多々あります。

例えをあげると次のような文章。

山本ほどの知能のある人が、このような決定をしたことはストレンジ(奇妙)だ」
「彼にはオポチュニティーが与えられるべきだった」 (オポチュニティー:oppotunity=機会)
「日本は、中国を完全にサブジュゲイト(服従)させるまで進む」


これらすべて本文からそのまま引用しています。
わざわざ括弧書きで説明を入れるくらいならそのまま日本語として記述してしまえばいいのにと読んでいて強く思いました。

後半になればこういう文章も減るので序盤を耐え切れれば何とかなるでしょう。


しかし、こういった文章の拙さを差し引いても、違った視点から記述された戦史という点ではなかなかのものがありました。
こういう類の本こそ、ある程度戦史に詳しくなった人にこそお勧めなのではないでしょうか。

偏読記に戻る