栗栖 弘臣著
(タイトルとは異なりマジノ線メインの本ではないです)
「マジノ線」。それは第二次世界大戦前にフランスがドイツとの国境線に築いた長大な要塞線です。
が、結果としてフランスはマジノ線が存在しないベルギーとの国境から進撃してきたドイツ軍によって国土を
蹂躙されてしまう訳で、今日においてはマジノ線は軍事史上の無用の長物の代名詞のように言われています。
俺はそんなマジノ線について「長大な要塞線」と言う程度のイメージしかもっておらず、具体的にどんなものなのか
よく知らなかったのでこの本で勉強してみようと思い読んで見ることに。
が、読み始めてみるといきなり普仏戦争(19世紀のプロイセンとフランスの戦争 ナポレオン3世がセダンで
プロイセン軍の捕虜になったのは有名です)から始まり面食らいました。
長々と普仏戦争の経緯が解説され、やっと第一次世界大戦だと思ったらまたもや長々と経緯が解説され、終戦後もフランスの対独防衛戦略の沿革がひたすら続きます。
マジノ線についてある程度記述されるのは中盤以降。正直これはかなり期待はずれでした。
サブタイトルの「フランス興亡100年」がこの本の内容を正しく表していると思われます。
が、まさにその「フランス興亡100年」と言う観点から見ると実はかなり充実した内容です。
普仏戦争以来仮想敵国にドイツを戴くフランスの対独作戦計画が、自国の状況や敵国たるドイツの状況、周囲の同盟国などの
状況を鑑みて刻々と変化していくくだりはなかなか楽しめました。
連続要塞線たる「マジノ線」もフランス軍としては最初からそういうものを作るつもりであった訳ではなく、、初めは軍部内でも
不連続の要塞線と野戦築城、機動防御によってドイツ軍の侵攻を防ぐ思想が優勢であったのが、様々な要因が重なって
連続要塞線という思想が支配的になり、結果としてマジノ線の構築につながっていったと言う記述は初めから「無敵の要塞線で
ドイツ軍を迎え撃つという思想に固執するフランス軍」と言う以前俺の持っていたイメージを覆してくれました。
また、「フランス興亡100年」と言うからには普仏戦争からの100年間を書いているわけで、当然第二次世界大戦後のフランスの
国防政策についても記述されています。こういう解説はなかなか目にする機会がないので興味深かったです。
ドイツとフランスの戦争というと、「いかにドイツ軍が勝ったか」的な本が世の中には数多いですが、敗者たるフランス軍の
防衛戦略を事細かに解説しているこの本は違った観点から見ることができるので良いのではないかと。
欠点としてはあまりにも淡々としすぎて盛り上がりに欠けるところですね。なんたって内容のほとんどは防衛計画の解説ですから。
一気に読破する、と言うよりは少しづつ読み進めると言うタイプの本だと思います。
また、著者が陸幕長や統幕議長も勤めた元自衛官だったのも驚きでしたね。