藤崎 武男著
(徒歩で中国大陸縦断とは凄すぎです)
黄河のほとりから、シンガポールまで。
徒歩で行けなんていわれたら誰もが憤慨するような距離ですね。
これは、そんな嘘のような事をやってしまった人たちの話です。
1944年2月26日。著者の指揮する第三十七師団歩兵第二百二十七連隊第一大隊第一中隊は、古巣青崖底を
離れます。
それは延べ1万5000キロにも及ぶ行軍の始まりでした。
中国大陸打通を目指した「一号作戦」に従軍した彼らはひたすら南へ、南へと進み、最後には中国すら離れ
仏領インドシナを通り抜け、マレー半島を南下してシンガポールまでたどり着いたところで終戦を迎えます。
地図で見るとその想像を絶する距離に絶句してしまいます。
読んでいても、本当に歩いてばっかりで戦闘行動をあまりしていないんですよね。
しかもそのほぼ全行程において補給は無く、基本的に現地調達のみで食料を賄ったというのだから驚きです。
日本軍占領地域では治安はいいのだが沿道の村々が略奪されつくしていて食料を手に入れるのが非常に
難しかったので、むしろ中国軍支配地域に入ったときの方が(まだ略奪の手が入っていないため)嬉しかった
といった記述を見ると泣けてきます。
また、この中隊長である著者もなかなかのお茶目さんで、中国と仏領インドシナの国境で師団命令で足止め
されているときに、独断で越境しちゃったりとか、サイゴンで知事官邸を占領したときに黙ってビュイックを一台
自分用に拝借しちゃったりとか。
一番凄いのは、村に立てこもったフランス兵約500名を50名そこそこの中隊しかいないのに
「約1個師団が君達を包囲している」とか言ってたまたま日本軍の爆撃機が上空を飛び去ったのを
「あれは私が呼んだものだ。30分後には諸君らの頭の上に爆弾の雨が降ることになる」
なんてほらを吹いて降伏させてしまったシーンですね。
これを読んでいろんな意味でこの人は凄いと思いました。