次の日、ぼくはいつものようにねぼうしてしまい、駅へ大急ぎで走った。そしていつもと同じように電車はぼくを待たずに出て行ってしまったんだ。ちくしょー、やっぱり車掌なんか大嫌いだ!と心の中で叫んだ。でもね、そのときのぼくの顔は微笑んでいたんだ。 |
いつもなら、心の中ではどうせ待ってはくれないんだろうと思いながら叫ぶんだけど、このときの心の中は空っぽで、ただ無我夢中で叫んでいた。そしたらいつもとは違うことが起こったんだ。なんとあのがんこな車掌が、いつものようにぼくの声を無視することなく、電車を止めて待っていてくれたんだ!そのときのぼくの頭の中は病院のことしかなかったからぜんぜん気づかなかったけど・・・ さいわいおじいちゃんは軽い貧血をおこしただけで、ぼくが病院に着いたときにはピンピンしていた。ほっと胸をなでおろしたとき、なぜかあの車掌の顔が頭に浮かんだんだ。そして今日あった出来事をおばあちゃんに話してみた。するとおばあちゃんは優しい目をしてぼくに教えてくれたんだ。 「ああ、あの車掌さんかい。あの人は人の目を見るだけでその人の心がわかってしまうんだよ。いつだったかねえ、さとるちゃんがまだ赤ちゃんだったとき、さとるちゃんはひどい熱をだしてしまって、それでお母さんは取るものも取らずにさとるちゃんを抱えて駅へと走ったんだよ。そのときもその車掌さんは、電車を出さずにじっと待っていてくれたってよ。あの車掌さんは人のために一生懸命な人が大好きなんだね。今日待っていてくれたのもそのためだよ、きっと。車掌さんはさとるちゃんの顔を見て、だれかのために一生懸命だってことがすぐにわかったのさ」 ぼくはそれを聞いてふーんと言っただけだったけど、車掌、さんが少し好きになった。 |
そんなある日のことだった。その日はめずらしく早く起きられたので、歩いてもゆうゆう間に合いそうだったんだ。玄関でくつをはき、家を出ようとするちょうどそのとき、プルルルルーと電話が鳴った。お父さんもお母さんも働いていて朝早く家を出ちゃうから、今家には僕しかいない。時間が気になったんだけど、もしもしーって受話器をとった。電話の相手はおばあちゃんだった。 「おはよ、おばあちゃんなにかあったの」 「忙しいとこごめんよ。実はね、おじいちゃんが入院しちゃったんだよ」 「え!?」 学校のことなんかすっかり忘れ、とにかく病院へ行かなくちゃって家を飛び出し、駅へと急いだんだ。病院は学校がある駅のひとつ手前の駅。電話がきてから10分以上たってるから、8時の電車に間に合うか微妙なところ。 あんのじょう駅につくと、電車はすでに駅に入ってきていて、今まさに出発しようとしている。ぼくは改札を抜け夢中で走り、いつもと同じように叫んだんだ。 「おーい、待ってくれー!」 |
僕の名前はさとる。6年生だ。人口の少ない小さな町に住んでいるので、学校の数もそれほどない。そのため、学校までは電車で行かなくてはならないんだ。朝8時に近所の駅を発車する電車に乗れなかったら遅刻は確実、だって次に来るのは30分後なんだもの。しかしねぼすけのぼくは、いつも家を出るのが遅くなり、大急ぎで走っていくけど、駅に着くのはいつも8時ごろ。ちょうど電車が発車する時間だ。ねえみんな、もしきみが車掌さんだったら、一生懸命走ってくるぼくを見てどうする?もちろん待っていてくれるよね。だってそうしないと30分も待たせなくちゃいけなくなるし、学校も遅刻しちゃう。かわいそうだよね。 |
車掌さん大嫌い |
おわり