放課後、広い校庭にいるのは僕と中田君、
それに担任の山口先生だけだった。
シーンとした校庭にピーという笛の音が響く。
最初はよかったんだ。順調にスピードに乗る
こともできた。しかし残りの10メートルが悪かった
んだ。勝ったぞと思い、油断しちゃったのが
いけなかったのかもしれないな。わずかの差で
負けてしまったよ。
「もう1本あるよ、がんばんな!」
  山口先生が励ましてくれる。でもそのときの
僕にはその言葉を受け入れられる余裕はとても
なかった。だって次ぎ負けたら僕は代表から
もれてしまうんだ もの。どうしよう…
そんなことばかり考えながら短い休憩時間を
すごし、いよいよ運命の2本目をむかえた。

 ピー!
 死に物狂いで走ったさ、これでもかっていう
くらいに腕を振って。必死だった。緊張している
暇なんてなかった。自分との戦い、そう50メートル
先のゴールを目指す敵は中田君じゃない、
自分自身なんだ。負けてもくいの残らない走りが
できるのか。そうするためには持っている力すべとを
出し尽くさなくてはならない。無我夢中でゴールラインを
走り抜けた。
  勝った、勝ったぞー!これで1勝1敗だ。
さあ先生、どっちを選ぶんだ。僕か、それとも中田君か。

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