「ほうらもう痛くないだろう。よく頑張ったねえ」
虫歯を削られるときはものすごく痛かったの
ですが、とても優しい歯医者さんだったので、
しんちゃんはなんとか泣かずに頑張れました。
「しん、よく頑張ったね」
ママもにこにこしています。さっきの鬼みたいな
顔がうそのようです。やっとしんちゃんにも笑顔が
戻りました。帰り道、しんちゃんはスキップしました。
家に着くころには真っ赤なおひさまが遠くの
山に半分隠れていました。まるでバイバイを
言っているようです。しんちゃんは昨日の夜は
痛くてあまり眠れなかったので、お風呂に入って
ご飯を食べると、だんだん眠くなってきました。
「ぼくもう寝るね。おやすみなさい」
しんちゃんはいつもよりずっと早く布団に入って
眠りました。
「ワーン、いたいよう」
誰かが泣く声でしんちゃんは目を覚まし
ました。まだ少し眠い目をこすりながら
時計を見るとびっくり、もう十二時です。
しんちゃんは最近になって時計の見方を
覚えました。いつもなら短い針がまだ下の
方にある時間に起きるのに、今日は真上を
指しています。
「た、大変だあ!」
あわてて服を着替えます。あまりに急いだ
ものだから、ズボンを足に引っかけてドスンと
ころんでしまいました。