「まさと君起きて」
  耳元でだれかがささやきます。
「ンー、だれだよう」
  まさと君は眠そうに、はじめうっすらと目を開けましたが、相手を見てビックリ、いっきに眠気は飛んでいきました。たたみ二枚ほどの大きな青い帽子が宙に浮きながらまさと君に話しかけていたのです。先程風で飛ばされた帽子に違いない、まさと君はすぐにそう思いました。
「これから僕と一緒に来てくれないかい?」
  驚きのあまり身動きできないまさと君に帽子は言いました。
「い、一体どこへ?」
  まさと君はこれを言うのが精一杯、それも小さな声で。
「来てくれれば分かるよ、さあ僕のツバにすわって」
  まさと君が恐る恐る帽子のツバに腰を下ろすと、帽子は二階にあるまさと君の部屋の窓から外へ出て、空高く舞い上がりました。みるみる家の屋根は小さくなっていき、綿菓子のような雲が周りにふわふわ浮いています。
「ウワーすごいなー」
  まさと君の驚きは今や喜びに変わったようです。
「もうすぐ日が沈んじゃう、急ごう」
  こう言うと、帽子はグーンとスピードをあげました。帽子の行く先には木が所狭しと生い茂り、先程まさと君の帽子が飛ばされてしまった森があります。その中へ、まさと君を乗せた青い帽子は、静かにスーッと降りていきました。
「さあ着いたよ」
  帽子にこう言われ、まさと君はチョコンと降りました。森の中は涼しく、周りでは小鳥がピーピーさえずっています。
「まさと君、あそこの木の上を見てごらん」
  そこにはひときわ大きな木があります。まさと君はゆっくりとそれに近づき見上げました。
「あー!」
  こう言ったきり、まさと君は口をあんぐり開け、まるで時間が止まったかのように身動き一つしなくなりました。目線の先に、青いまさと君の帽子があるではありませんか。帽子はひっくりかえり、枝にひっかかっています。ピーピーピーピー。そこへ二羽のジュウシマツが飛んで来ました。口にはわらをくわえています。どうやら巣作りをしているようです。きっとあの二羽は夫婦なのでしょう。一羽は真っ白で、もう一羽は頭と背中が茶色くなっています。二羽はそのまま帽子の中へと入っていきました。
「まさと君、僕も君と離れ離れになってしまい悲しいけど、あの木の枝へ、しかも逆さに落ちられたおかげで、あのジュウシマツたちの役に立つことができているんだ。もう一緒に暮らすことはできないけど、僕はずっとここにいるからいつでも会いに来ておくれよ」
「うん、わかった。僕の不注意で君が飛ばされて、さっきまでは悲しくて悲しくてたまらなかったけど、今はもう大丈夫。帽子君、ありがとう。しっかりジュウシマツたちを守ってあげてね」

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