まさと君は他にも色々なことを思い出しました。けんかして負けたとき、涙でクシャクシャの顔をかくしてくれたこと。帽子をあみの代わりにして、ちょうを捕まえたこと。好きな女の子に、その帽子をかぶっているときのまさと君ってかっこいいねと言われ、顔を真っ赤にしてしまったことなど・・・ 思い出せば出すほどまさとくんの小さな胸は苦しくなりました。やがて泣き疲れたのかまさと君はすやすや眠ってしまいました。 |
「新しい帽子買ってあげるからもう泣くのはやめなさい、男の子でしょ」 家に帰ってきてからずっと泣いているまさと君にお母さんは言いました。 「そんなもんいらないよ、ぼくはあれじゃなきゃやなんだ!」 まさと君は叫びました。泣きながら飛んでいってしまった帽子との、今日までの日々をずっと思い起こしていました。買ってくれたのは優しかったおばあちゃんです。二人でデパートへ行ったときでした。 「あらーまあちゃん、とっても似合っているわよ。それをかぶっておうちへ帰 りましょ」 おばあちゃんはうれしそうに、にこにこしながら言いました。 「おばあちゃん買ってくれるの、やったー!ありがとう」 まさと君もとってもうれしそうな顔をしました。 それからしばらくしておばあちゃんは亡くなりました。お葬式の日、まさと君は目に涙をいっぱいため、その帽子をかぶりながらおばあちゃんとお別れをしました。 |
ブルーの野球帽、これがまさと君のトレードマークです。夏の暑い日も冬の寒い日もこのかっこうはかわりません。旅行やパーティーなどの思い出の写真にも、いつもまさと君と帽子は一緒に写っています。 その日も、いつもと同じようにまさと君は友達と遊ぼうと、帽子をかぶり、外へ出ました。風の強い日の一瞬の出来事でした。地面からはい上がるような突風が吹き、あっという間に帽子は天高く舞い上がり、糸の切れたたこのようにユラユラ森の方へ飛んでいってしまったのです。ボーとたたずむまさと君の姿だけがその場に残されました。 |
まさと君の野球帽