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  次(つぎ)の日(ひ)の朝早く(あさはやく)、ぼくとおとう
ちゃんはかっぱを川に放(はな)しに来(き)た。するとそこ
ではかっぱのお父さんとお母(かあ)さんがこどもの帰り
(かえり)を待(ま)っていた。
「キュウルルルルーキュウルルルルー」
  かっぱのこどもはうれしそうになき、ぼくの手(て)を
ギュッと握(にぎ)った。
「こいつう、きゅうにかわいくなりやがって。ほら、はやく
お帰り」
  ぼくの胸(むね)はキュンとなった。
  
  その日、学校(がっこう)の体育(たいいく)の授業
(じゅぎょう)は水泳(すいえい)だった。5年生(ねんせい)
になってもかなづちなぼくは大嫌い(だいきらい)。ところ
が不思議(ふしぎ)なことにすいすい泳(およ)げるように
なっていたんだ。きっとあいつが手を握ってくれたときパ
ワーをくれたんだ!ありがとう、またいつでもおいで!
  おとうちゃんはポカンと口を開(あ)けている。おかあ
ちゃんはバケツに水をくんできて、酒臭(さけくさ)いかっぱ
にザバン。ぼくはビックリ。
「おかあちゃん何やってんだよ、家(いえ)が水浸し(みずび
たし)じゃないか!」
「だってこうでもしなきゃ家がこわされちゃうじゃないの!」
  もうめちゃくちゃだ。ぼくらがケンカしているのをよそに、
かっぱはあばれ疲(つか)れたのかすやすや眠(ねむ)ってし
まった。その幸(しあわ)せそうな顔をみたらますます腹(は
ら)が立(た)ってきた。
  ぼくはそいつをにらみつけた。そいつも負(ま)け
じとにらみ返(かえ)す。しかしやっぱりどことなく元気
がないようだ。そこへおとうちゃんがコップに水(みず)
を入(い)れてやってきて、かっぱの頭にかけぎはじめた。
「お、おとうちゃん…なにしてるの?おとうちゃんおかしく
なっちゃったの?」
「言ったろ、こいつら川の中でくらしているんだ。だから
体(からだ)から水分(すいぶん)がぬけちまうと元気が
なくなるのさ」
  おとうちゃんの言うとおり、かっぱはどんどん元気に
なっていった。それにしても元気すぎる。ついには
「ギャッパッパッパー」と暴(あば)れはじめてしまった。
「お父(とう)さん!あなたがかけたの水じゃなくて
お酒(さけ)よ!」
  おかあちゃんが大声(おおごえ)でさけんだ。
「何だって?そいえばこいつの顔、緑(みどり)から
赤(あか)に変わってる…信号(しんごう)、みたい」
 おとうちゃんが変(へん)な生き物(いきもの)をつれて
きた。緑色(みどりいろ)で口(くち)がとがっていて、
頭(あたま)に皿(さら)みたいなものがのっている。
ぼくの肩(かた)くらいの背(せ)だ。
「なにこいつ?」
「おまえ知(し)らないのか。『かっぱ』っていうのさ。ふつう
は川(かわ)の中(なか)でくらしているんだけど、なぜだか
こいつ道(みち)の上(うえ)にたおれてたんだ」
 おとうちゃんはけケロッと言(い)った。かっぱは元気
(げんき)がないようだ。おいどうしたとぼくはそいつの頭を
ポコンとたたいてみた。
「キュルルルルー、ギュッパギュッパッ」
 ガブッ。
「いってー、なんなんだよ。軽(かる)くたたいただけなのに
かみつきやがって!バカヤロー!!」
   かっぱで大騒ぎ(おおさわぎ)