「くっせー!」
  玄関にある小さな青いバケツをのぞきこんで、
はやとは大声をあげた。中には水面からにょきっと
頭をつき出したミドリガメがいる。去年の春、
おじいちゃんに買ってもらったものだ。
体が見えないほど水は真っ黒によごれている。
最初はうれしくて大事に育てていたのだが、
このごろではカメを飼っていることさえも忘れがち
で、水がよごれてきて悪臭を発すると思い出す、
といった程度だ。
「こんなにくっせーのによく平気だなあ」
  鼻を押さえ、カメに向かって言った。
カメはぼーっとした目ではやとを見ていた。

「やべ、しんと待ち合わせしてんだ!」
  くつをはくと外へ飛び出し、自転車に
またがった。

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