視線―― Eye Contact ――
きみの気配を感じる。
目が勝手にきみを探しはじめ、
見つけると、もう、そらすことができない――
きみが、振り返る。俺の視線を感じて。振り返る気配を感じて、あわてて視線をもぎ離し、なにくわぬ顔でいかにも、今、彼女に気づいたふりをする。
俺は、いったい、いつの間にこんなに情けない行動をするようになってしまったのだろう。
彼女の、探るような視線。誰かを、探している――
当然だ。視線を感じて振り返ったのなら、誰が見ていたのかは、誰だって気になるものだ。
天使の名を持つ、金の髪の少女。
至高の存在になる可能性を秘めているということを除けば、普通の少女に過ぎない。そして俺は、その彼女の可能性を、まったく疑っていない。
至高の存在――女王陛下になる少女だと。
けげんな顔をしている少女に向かって声をかける。
「よお。お嬢ちゃん。今日もかわいいな。ん?どうした?誰か、探しているのか?」
「こんにちは。オスカーさま。……はい、あの、最近、視線を感じるようになって……。誰なのか、気になって仕方ないんです。」
かすかに、心臓が「どきり」という音をたてる。だが、彼女が俺のことをどう思っているのかわからない以上、その視線の主が自分であることなど、教えられるはずがなかった。
俺は、強さを司る炎の守護聖――では、なかったのか?
こんな、たったひとりの少女にふられることが怖くて、自分の気持ちひとつ伝えることができずにいるのが自分であるとは、思いもかけないことだった。言葉では、「お嬢ちゃんも隅に置けないな。お嬢ちゃんに恋いこがれる誰かの視線なんじゃないのか?」などと軽口をたたき、「からかわないでください!」などと反抗されているのだが。
もっとも、彼女の頬を、ぱっと朱で染め上げたのは誰のことを思ってのことなのか、それを知りたいと、これ以上もなく切望していたのだが。日の曜日。
毎週恒例となった、ランディとの稽古の日だ。いつものようにさわやかに走ってくる少年を、おとなげないとは思いつつ、もし、彼女の思い人がランディならと、そう思うと、いつになく稽古に熱が入った。
もし、本当にそうなら、ただじゃおかない。たとえ、この手を汚してでも――
俺は、なんていうことを考えているのだ。
生傷を盛大につけながらも、めげずに立ち向かってくる少年に、なんとなく気がとがめて、罪悪感の分だけ、的確で熱心な指導へと転化する。
自分で、自分の感情を持て余している。
こんな、八つ当たりめいた稽古など、本当はしたいとも思わないのに。
たったひとりの少女のために、ここまで自分がかき回されるなど、思ってもみなかったことだった。こんなにも、焦がれるほどにひとりを欲することがあろうとは。
最近の彼女は、ほんの少し目を離しただけで、その間にもどんどんきれいになっていく。花がゆっくりと開くように。鮮やかに。
ランディが礼をいって去ってしまったあとも、俺は、そのことをしきりと考えていた。
彼女が、欲しいと。そのことだけを。生まれて初めての感情だ。
こんな、たったひとりを求めてやまないのは。
見つめるだけではぜんぜんたりない。
あの華奢な身体をかき抱き、さんごの色をしたくちびるにくちづける。
それほどまでに近づくことができたなら、きっと彼女の金の髪と俺の真紅の髪は、混じりあい、とけあうだろう。
象牙色をしたやわらかい肌にくちづけ、おのれの所有の証を刻むだろう。
彼女の唇は俺の名を呼び――そこまで考えて俺は、ふっと我に返った。
ばかな。
彼女が。それほどまで俺を求めるだろうか。
あの少女が誰を好きなのかもわかっていないくせに。
もちろん、俺はなにひとつできやしないだろう。
少なくとも、彼女の気持ちを知るまでは――
彼女の気持ちが、俺に向いていなければ、なおのこと。
だが。もし、俺を選んでくれたなら。
全宇宙の女王になるべく努力している彼女が、それをなげうってでも、俺を選んでくれたなら、俺はきっと、この命をかけて――俺の、こんな感情には関係なく、日々は過ぎていった。
ある日。俺は視線を感じた。
視線の主を求めて振り向いた。そこに、天使がいた。
もう、彼女を「お嬢ちゃん」とは二度と呼べない。
そんな予感がした。end.
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ここ数日、オスカーさまがみわじぇりにのりうつってしまいまして、ほかの創作や、リクエストをぶっとばしての登場です。
賛否両論ありそうな感じですけど、頭の中がぐるぐるしていて、ほかのことを考えられなくなっていたのでした。これは。双方片思いですね。オスカーさまのほうがオトナの分だけ、過激なことを考えていらっしゃいますけど。
なかなか。理想ですわ〜〜〜〜〜〜〜〜〜♪