風の求めるもの

                 

「ねえ。ランディは、何か欲しいものはないの?」
 和やかな午後、いつものようにいつものメンバーでお茶の時間を楽しんでいたときだった。ふとしたことから欲しいものの話題になったとき、マルセルがランディにそう聞いた。いきなり話題をふられてとまどうランディに、マルセルが重ねて聞いた。
「聞いてるの?ランディ。何か欲しいものはないの?って、聞いたんだよ?」
「あ、ああ、ごめん。マルセル。急だったからびっくりしちゃって。」
「しょーがねーなー。ったく、ボーっとしてやがるぜ。ランディに話題ふったのは間違いじゃねーのか?マルセル。」
 いつもながらゼフェルは口が悪い。慣れっこだが、やはり頭にはくるもので。
「じゃあ、ゼフェルは急に話題をふられてすぐに答えられるのか?答えてみろよ。いったいおまえは何が欲しいんだ?」
「オレか?オレさまはなー。」
 と、ゼフェルは言葉を切って、とうとうと欲しいものを並べたてはじめたが、ほとんどが彼の新作メカの部品だったり、新しい技術で作られた材料だったりで、残念ながらゼフェル以外のメンバーには、まるきりわからないものばかりだった。
「もういいよ。ゼフェル。わたしたちにはなんのことなんだかさっぱりわかんないよ。メカの関係以外に欲しいものはないの?」
 オリヴィエの助け船にもゼフェルは、あっけなく『ねーよ』と、一言で片づけてしまった。
 そのゼフェルの態度にオリヴィエがなにやら反応しているようだが、それを眺めやりながら、ランディは、自分の欲しいものを考えていた。
 マルセルは、たぶん花の苗か何かだろうし、ルヴァは本以外に欲しいものはないだろう。オリヴィエは……やはり服とか、アクセサリー、新作の化粧品などだろう。ゼフェルは、今も彼本人が口にしたとおり、自分の作るメカの関係のものが欲しいらしい。そして、自分は……
 自分は、いったい何が欲しいのだろう。
 実を言うと、改まって何が欲しいのかと聞かれるのは、苦手だった。
 特にものにこだわることはないし、趣味のものといっても、すでにもっている道具で充分だ。
 欲しいものが何もないというのは、自分がつまらない人間のような気がしてきて、ちょっぴりランディは寂しくなった。
 欲しいもの。
 ないというわけではない。
 でも、『物』ではない。
 目には見えないもの。それは……

            **********

 それから数日が過ぎたあと、ランディは女王陛下の謁見の間に呼び出された。金髪の女王陛下は、ランディに向かって、彼が驚くべきことを口にした。
「え?俺、が、護衛、ですか?陛下の?」
「ええ。前から計画していたの。アンジェリークとふたりでお出かけしたいわねって。今回の計画が流れちゃったら、いつ外出できるかわからないから、どうしてもいきたいの。お願いします。ランディさま。」
 『お願い』と言われて、断るというのはもとから彼の性格ではないが、今回ばかりは事情が違う。金髪の女王陛下ひとりですら荷が重いであろうに、新宇宙の女王陛下まで一緒だというのだ。(陛下が「アンジェリーク」と、自分の名前でもあるその名を呼ぶのは、新宇宙の女王、アンジェリーク・コレットのことだ。)ふたりのそれぞれの補佐官までが一緒ではないというのがせめてもの救い(?)といえば救いだが。
 そもそも、こういう場合はオスカーあたりが護衛につくもので、自分はその補佐役というのがセオリーだったのだが。
「オスカーさまは、緊急の用事ができて、惑星視察に出かけてしまったんです。炎のサクリアが関係しているから、どうしてもオスカーさまじゃなくちゃいけなくて。……でも、こんなお出かけのチャンスなんて、もう二度とないかもしれないし……」
 聞けばジュリアスも、もうひとり守護聖を補佐役につれていくことを条件にして許可したというし、行き先は、現時点でもっとも情勢の安定しているティムカの統治する惑星だということなので、気負いも新たにして請け負った。
「ありがとうございます!よろしくお願いしますね。ランディさま!」
 嬉しそうに手を打ち合わせて喜ぶ女王陛下に、ランディは緊張しながらも、ようやく自分が認めてもらえたのだという、誇らしい気分で頬を紅潮させた。
 さあ、ここで悩むのは、自分の補佐役としてつれていく守護聖だが。
 誰でもいいといわれたところで、自分よりも年長のものを補佐としてつれていくというのも、なんとなく気が引ける。そこで、同年代のふたりに声をかけたのだが、どうやらふたりとも別の用事があるらしく、つれていくのは無理のようだった。
 さて、残るは自分よりも年長のものばかりだが。ジュリアス、クラヴィスは、とても頼めそうにない相手なので、論外として、クラヴィスのそばを離れるを良しとしないリュミエールも、おそらくは無理だろう。オスカーは、彼がいたら間違いなく自分が補佐に回るであろうし、なんといっても留守なのがわかっている。これも、論外。オリヴィエは、どうやら式典があるとかで留守。残るルヴァは……
「ああ、やはり行くことにしたんですかー。楽しみにしていらっしゃいましたからねー。そういうわけでしたら、わたしでよければお手伝いしますよ。ランディ。」
 以外にもあっさりと承諾されたので、ランディはほっとしながらも、ルヴァは少々頼りないが、行き先の治安の良さは保証されているようなものなので、まあ、大丈夫だろう、などと不謹慎な上に失礼なことを考えていたのだった。

           **********

 白亜の惑星は、ティムカ自身も言っていたことがあったが、亜熱帯に属する気候で、さすがのルヴァも暑いらしく、しきりにぱたぱたと仰いで風を作っている。女王ふたりはさっそくリゾートに来た観光客のような格好になっていて、とても大宇宙を司る、聖なる存在には見えない。普通の少女のようだ。
 宿泊予定のリゾートホテルに落ちつき、そこでルヴァ共々、軽快な服装に着替える。海の見える、瀟洒なホテルだ。部屋も広くとってあって、ツインの1室にふたりのアンジェリーク、もう1室にふたりの守護聖が陣取った。もちろん、この惑星でいちばん立派なホテルのいちばんいい部屋だ。
「ランディさま、ルヴァさま。わたしたちの呼び方なんですけど。わたしのことは、『アンジェ』と呼んでくださいませんか?アンジェリークのことは、『コレット』って。」
 ランディたちのいる部屋に来た女王陛下がそういった。お忍びなのだから、その言葉に異存はない。こんなところ(といっては、ティムカに失礼だが)に聖なる女王が、ふたりもいるなどと、一般の人間に知られたら大パニックになってしまう。
「あー、そのことは、陛下のお部屋に行って伺おうと思っていたのです。ねえ?ランディ?」
 ルヴァの言葉を聞いて、陛下、いや、アンジェがにっこりと笑った。
「よかった!失礼なことを言うと思われたらどうしようかと思っていたんです。そうそう、敬語もなしにしましょう。ね?ルヴァさま、ランディさま。」
「でしたら、わたしたちのことも『さま』をつけないで呼んでくださいませんか?もちろん、ええと、コレット、も。」
 これについては、アンジェも、コレットも、どちらも実行できなかったため、変えるのはふたりの女王の名前の呼び方だけになった。

             **********

 海岸で、ふたりの少女とひとりの少年がはしゃぎ回っている。もちろん、ふたりのアンジェリークと、ランディだ。さすがにルヴァは、これにはついていけないらしく、日陰で本を読んでいたりしている。
 さんざん遊んで、服も髪もびしょびしょにしながら、ホテルの部屋へ戻った。シャワーを浴びて、ホテルのレストランの前でルヴァとふたりでアンジェとコレットを待っていると、同じホテルの宿泊客のひとりが顔中を傷だらけにして帰ってくるのが見えた。
「ルヴァさま。あの人……」
「ええ。ちょっと気になりますねぇ。わたしがお話を聞いてきますから、ランディは陛下、いえ、アンジェとコレットを待っていてあげてくださいねー。」

 食事も無事に終わり、それぞれの自室に戻ると、食事の前にルヴァが観光客とホテルの従業員から聞いた話を検討しはじめた。どうやら、あと2日ほどで始まる、今回の旅行のメインイベントでもあるお祭りを見に来た観光客の中に、あまりたちのよくないものがいるらしく、地元住民といわず、他の観光客といわず、あちこちで喧嘩をふっかけて回るので、ここ数日、急激に治安が悪化しているのだということだ。
「あー、こうなるとわたしたちでは荷が重いかもしれませんけど、がんばりましょうねー。ね?ランディ?」
「はい!がんばります!ルヴァさま!」
 そう。大切な女王ふたりにけがひとつでもさせるわけにはいかない。ランディは、大いに張り切ることにした。もっとも、ゼフェルやオリヴィエといった口の悪い連中にいわせると、『ランディが熱血すると、ろくなことにはならない』のだそうだが……?

            **********

 翌日、早々に朝食を済ませたあとは、明日以降はお祭りのため大混雑が予想されるので、今日のうちにおみやげを買うということにして、4人は町へと繰り出した。
「ねえ。コレット、これ、ジュリアスさまにどうかしら?」
「アンジェ……、しかられちゃいますよぉ?ジュリアスさまには、そんなジョークは通用しないんじゃあ?」
「大丈夫よぉ。あ、そうだわ。どうせなら、冗談用と、そのあとでフォローするための本当のおみやげと、ふたつずつ買わない?」
「あ!それはいいかもしれません!おもしろそうですね!」
 女の買い物は長い。ランディは手持ちぶさたにしながらも(ルヴァは、もちろん、苦痛とは思っていないらしい。)ゼフェルがいたらどういうだろうとぼんやり考えていた。
 彼のことだ。『あー、待ってられねーよ!女の買い物は、なげーんだよ!』と、遠慮なく言い放つことだろう。マルセルなら、『もう退屈だよぉ。違うところに行きましょうよぉ。』とでも言ったに違いない。
 ランディの場合は、なんだかちょっと言い出せない感じがある。遠慮しているというわけでもないのだが。
 ふと、隣の店に視線をやると、なんだか、たちの悪そうな男が3人、たむろしているのが見えた。ルヴァは、もちろん気づいていない。自分の気のせいならいい。だが、この男たちは、アンジェとコレットのふたりをみてはいなかったか?
 店の前で、土産物を物色しながらきゃあきゃあいっているふたりの少女は、どちらもそれなりに美人だし、相当に目立つ。そのふたりを連れているルヴァとランディは、お世辞にも頼れるとは言い切れない部分がある。まして、平和な国であるということと、ティムカへの体面がある。剣は、聖地においてきている。持っているのは護身用にというよりは、何かの役に立つかもしれないという軽い気持ちで身につけている短剣だけだ。ルヴァは、当然丸腰だろう。
 短剣のある場所をこっそりと確認しながら、ランディは必死で、オスカーならどう対処するだろう、とばかり考えていた。
 オスカーなら。さりげなくこの場所から離れ、人混みに紛れるか、紛れられなかったら思い切って人混みをでて、なるべく他人に迷惑をかけずにいられるように人気のないところで対処に当たるはずだ。
 もっとも、彼ならば立派にこの短剣ひとつでも充分に女王ふたりとルヴァをも守れるだろうが、ランディに、果たしてその力量があるのだかどうだか。
「あ。向こうにもおもしろい店がありますよ。」
 と、さりげなさを装って、とりあえずこの場所を移動する。目で確認すると、確かに男たちがついてくる。ランディがこっそりとルヴァにそのことを耳打ちすると、
「困りましたねえ。陛下たちにはそのことは、まだいわないでくださいねー。」
「はい。ルヴァさま。」
 振り返ることもせず、どうやら頭脳をフル回転させているらしいルヴァは、目の前の少女ふたりを見据えている。
「ランディ。」
「はい?」
「あの3人を、自分ひとりで押さえる自信はありますか?」
「どういう、ことですか?」
「一度、走ってみて、追ってこなければよいのですけど、たぶん、追ってくるでしょう。あなたの勘が正しければね。そうしたら、わたしたちは王宮に向かいます。あのふたりに万一のことがあってからでは遅いですからね。その間、あなたにはあの男たちを押さえていてほしいのです。わたしはお世辞にも武闘派ではありませんし、運動神経もよくはありませんからね。一緒に走っても、たぶんすぐに追いつかれてしまうでしょう。ティムカに事情を話して応援をよこしてもらいます。どうですか?」
「やってみます。」
 ふたりは頷きあうと、いきなりふたりの少女を連れて走り出した。
「追ってきます!ルヴァさま!」
「では、打ち合わせの通りに!」
「はい!」
 ランディは、人気の少ないところにでたのを確かめてから、くるりと足を止めて振り返った。
「きみたち、なんの用なんだ?俺たちをずっとつけ回していたね?」
 しかし、ランディのこの問いに男たちは答えず、ひとりを残してふたりがルヴァの連れたアンジェリークたちを追い始めようとした。もちろん、黙ってみているわけにはいかない。
「待てよ!なんの用なのかって聞いてるんだよ!どうしてもというのなら、俺を倒してからいけばいいだろう!」
「うざったい坊やだな。そんなに痛い目がみたいのかよ?」
 残るふたりも、足を止めてランディに振り向いた。
 よし。とりあえずは3人とも足を止めさせることができたぞ。
 とはいうものの、応援が到着するまで、どうやって持ちこたえさせることができるか。ランディが弱いと思ったからこそ、こうやって一気に片づけようと思って3人とも足を止めたのだ。もちろん、黙ってあっさりと負けるつもりはない。間合いを取りながら、足をこころもち開く。オスカーの教えの通りに。
 ここであっさりと負けたりしたら、坊や扱いされても何も言い返せなくなってしまう。それだけはいやだ。
 ランディは、自分にそういい聞かせると、目の前にいるひとりに視線を向けた。
 右手にいるひとりが、殴りかかってくる。あっさりとかわして大きく飛んで顔面にけりを入れる。身の軽い、ランディならではの技だ。ただし、オスカーには通用したことがないが。
 油断していたのか、クリーン・ヒットしたらしい男が、地響きをたてて倒れると、残るふたりの表情が変わった。今度は、こんなにはあっさりとは倒れてはくれないだろう。ランディは、ぎりっと奥歯をかみしめた。

 ふたりを連れたルヴァは、無事に逃げただろうか。
 心のどこかでそう思いながらも、目の前の敵に集中する。聖地に帰ったら、今度はオスカーに、剣を使う以外の戦い方も教えてもらわなくてはならない。
「さあ。来いよ。」
 ランディの挑発に、男のひとりが殴りかかってくる。思い切り腹を蹴り上げ、背中にも肘打ちを与えると、男の身体がふたつにおれた。これも、いい感じにヒットしたらしい。げえげえと腹を押さえて吐いているこの男は、戦闘には戻れそうにない。あとひとりだ。
 ひとりなら、なんとかなる、かな?
 ふっと、安心したところで、男の左腕が自分の腹に吸い込まれるのにランディが気づいた、次の瞬間、ランディは軽々と吹っ飛ばされていた。
 空中で体勢を立て直し、何とか道路にたたきつけられるのは回避したが、殴られたダメージはかなり大きい。無事に着地したものの、ふらりとよろけてしまう。しかし、ここで負けるわけにはいかない。ここで負けたら、アンジェリークたちとルヴァの身が危ない。一瞬でも気を抜いたのを後悔した。目の前がかすむが、ランディは戦闘の構えをとった。目の前の敵をにらみ据える。
 絶対に、あの3人は俺が守る!
 飛び上がって、足で顔面を狙う。捕らえたと思った瞬間、足を捕まれて振り回された。身体をひねって、ダメージを最小に押さえる。敵の男の足にタックルをすると、これは予想していなかったのか、どう、とばかりに男が倒れた。そこに肘で腹を襲う。
 しかし、厚い肉に阻まれて、大したダメージにはならなかったようだ。分厚い手のひらがランディの頬を打った。体重の少ないランディの身体が、あっさりとふき飛ばされる。
「……ちくしょう!」
 負けず嫌いのランディの性格に火がついた。がむしゃらにぶち当たる。拳で顔面を襲い、全身を使って男に攻撃をする。

 実力伯仲、というか、泥仕合になったところで、ようやくティムカの差し向けた王宮護衛軍の一群とルヴァが到着した。
「ラ、ランディーっ!」
 ルヴァが叫ぶのがランディの耳に遠く聞こえた。そこで、張りつめていた気力が一気にとぎれたのか、ランディの意識はすうっと何かに吸い込まれるよに遠くなってしまった。もっとも、あとで聞くと、このとき、殴る体勢になっていた拳を、しっかりと男の頬にたたき込んでから気絶したらしいのだが。

           **********

「ランディさま!」「ランディ!」
 目を開けると、泣きはらした顔のふたりのアンジェリークと、心配そうにかがみ込んでいるルヴァの顔と、ルヴァの肩越しにティムカの姿も見える。
「あ、ルヴァさま……。ふたりとも!大丈夫……でしたか?」
 あわてて飛び起きようとして、ランディは、あまりの激痛に思わず顔をしかめてしまった。
「あー、無理はしないで。もう安全ですからね。ゆっくりと傷をなおしてくださいねー。」
 ルヴァにいわれて、ランディはおとなしく身体を横たえる。3人を守ることができたという充足感と、あのようなもの相手に互角にしか戦えなかったという、情けなさとが、交互に襲ってくる。
 しかし、そのもの思いは、女王陛下の言葉によってさえぎられた。
「すみません。ランディさま。わたしたちがわがままを言ったせいで、こんなことになってしまって……。」
「い、いいんですよ。陛下。これは、俺の力不足が招いた結果なんですから。」
「それに……そんなけがじゃあ、せっかくのバースデーケーキが食べられないです。」
 コレットの言葉に、ランディはびっくりして聞き返した。
「……は?バースデーケーキ?」
 聞き返したランディの言葉に、今度は女王ふたりが、一句一語違わず、完璧にハモって言った。
「だって!明日、ランディさまのお誕生日ですよ?」
 話をよくよく聞いてみると、この、いたずら好きの女王陛下たちは、聖地でパーティーをするのも、マンネリになってきているから、旅行を計画してランディを連れ出し、その間にみんなで準備しておこうとしていたこと。ついでだから会場をティムカの惑星に設定して、そこでランディをびっくりさせようと計画していたこと。彼ら以外の参加メンバーはすでに、この白亜の惑星に到着して、パーティーの準備をして待っていること。など、など……
 もちろん、あの男たちは演出などではなく、アクシデントであったこと。
「だ、だって!ルヴァさまは?いないと手が足りないんじゃないですか?」
「あー、わたしはいつも失敗ばかりやってしまいますからねー。いてもいなくても同じなんですよー。あっはっは。」
 呆然としているランディの前に、オスカーが人の悪い笑みを浮かべながら、ひょいとランディの眼前に現れた。
「オ、オスカーさま!」
「こんなけがをするほど、相手は強かったのか?もっと鍛える必要がありそうだな?坊や?」
 『坊や』と呼ばれてランディは真っ赤になったが、
「はい!よろしくお願いします!オスカーさま!」
 と、自分の傷も忘れて元気に答え、傷口をまた押さえた。
 そんなランディを眺めやりながら、オスカーが続けた。
「ところで、どうやら短剣を持っていたのに使わなかったようだが、何か理由でもあるのか?」
 そうだ。自分は、短剣を持っていたのだ。
「わ、忘れていました。それに……相手が、素手でしたから。あいつらが何か刃物を持ち出したら、たぶん、思い出したと思うんですけど。」
 ランディの答えに、オスカーは満足したようだった。
「それならそれはともかくとして、レディたちに傷ひとつつけさせなかったことだけは、認めてやるぞ。よくやったな。ランディ。ジュリアスさまも、ほめていらしたぞ。」
 横になっているランディの頭をぽんぽんとたたいて、にやりとまた笑ってみせたオスカーは、部屋を出ていった。ランディはといえば、オスカーがしっかりと女王ふたりを連れだしてしまったことにすら気づかぬほど、ひたすら感動しまくっていた。
 オスカーさまが、ほめてくれた。認めてくれた。オスカーさまだけじゃない。ふたりの女王陛下も、他の守護聖のみんなも、自分を認めてくれて、安全なところとはいえ陛下ふたりを連れて旅行に出かけさせてくれた。ルヴァさまは、本当に万一のお目付役だったのだろう。
 みんなが、自分のことを信頼して、認めてくれている。
 そのことが、誇らしく、くすぐったかった。
 ゼフェルとマルセルがやってきて、何事かいっていたけれども、それは耳には入っていなかった。ゼフェルが、肩をすくめた。
「あーあー。あの顔は、オッサンになんかいわれて舞い上がってるって顔だぜー。しょーがねーやつだなー。」
「もしかしたら、これがランディのいちばんほしかったプレゼントなのかもしれないね。だってほら。とっても嬉しそう。」
「けっ!あーいうのはなー、単純ランディバカってーんだよ。」

 翌日、何とか起きあがったランディのために、みんなで用意した食事や、飲み物などの、アリオスいうところの『守護聖宴会セット』を、ティムカの王宮の、広間一室を使ってひろげ、何はともあれパーティーを開いたのであった。
 そして、聖地に戻ってほどなく、ランディの傷もすっかりと癒え、また毎週日の曜日に炎の私邸に走っていく風の守護聖の姿が見えるようになった。
 聖地は今日も、平和だった。

                               END

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いかがでしたでしょうか?
なんだか、オスランか、ランアンの様相ですねー。……あれ?(爆)
ランディさまの誕生日のプレゼントが、どうしても思いつかなくて、実はどうしようかと思っていました。
ランディさま、アクションシーン!結果は、ちょっぴり情けなかったけど、彼らしさはでていると思っています。どうでしょうか?
(これであっさりと勝ってしまってはランディさまらしくないですよね?やっぱり。)(かえすがえす失礼なやつ。)
しかし、ひいきというか、なんというか……オスカーさま、おいしい役どころですね。やっぱり、かっこいい人は違いますね(^^)
ランディさま!お誕生日おめでとうございます!