そ よ 風 の 小 径

第33回  愛知トリエンナーレ  (2010年 10月 24日)

  毎月、何度か名古屋栄にあるNHK名古屋放送センタービルに出掛ける機会があります。その7階がNHK文化セン

 ターの教室になっているからです。

  名古屋の中心部を南北に走る久屋大通りと、東西に走る錦通りの交差する一帯に放送センタービルはあって、眺め

 のいい景色が広がっています。間近にはオアシス21、名古屋テレビ塔の銀色の姿がそびえ、近くにはデパート、ショッ

 ピング施設が軒を連ねる、そんな景色を眺めるのが好きです。もっともこの街の特徴は林立するビル群ではなくて、そ

 の中央を悠然とたたずむ緑地公園でしょう。

  確か中学生のころの社会科の授業で、太平洋戦争で60回余りの空襲にあった名古屋は焦土と化し、大がかりな

 復興計画が立てられたことを教わりました。世界的にも珍しい百メートル幅の道路が造られ、その道路の中央には公

 園が広がっていると聞き、まるで夢のような世界を想像したことを昨日のように思い出します。それが今現実となって

 目の前に広がっているのですから、感慨もひとしおです。

  さて、そんなある日の午前、いつものようにNHK文

 化センター7階の教室の窓辺に寄ってオアシス21の

 最上階にある水を張った大屋根の{水の宇宙船}に

 目を向けたところ、そのあちらこちらにピンクの極彩

 色に彩られた訳の分からない物体が置かれている

 ではありませんか!「なんじゃこりゃ」というのが正直

 な感想だったのですが、間もなくそれが8月21日か

 ら始まった愛知トリエンナーレの作品の一つである

 ことを知るのでした。

  「新しいアートの動向を愛知から世界へ発信する国際芸術祭」・・・愛知トリエンナーレを紹介するパンフレットには、

 そんなふうに紹介されています。日本最大規模の国際的な芸術祭であることも記載され、栄エリア、白川公園エリア

 長者町エリア、納屋橋エリア、大須エリア、とそれぞれの場所に世界のアーチストたちの作品を鑑賞することが出来

 るというもので、私も早速全会場に出入りできるチケットを購入しました。

  この芸術祭の様子はテレビでもしばしば取り上げられたので、皆さんのなかにも映像で作品群をお目にかかった

 人もおられることでしょう。愛知トリエンナーレの特徴は、美術館や劇場のみならず、広場や公園などの街なかへも

 飛び出して、街がまるごとアート空間になるというのですから楽しみなことでした。

  けれど実際に美術館に足を運んで作品を目の前にして感じたことは、戸惑いでした。どう鑑賞したらよいものか、

 誰か教えて!というのが芸術文化センター会場での偽らざる感想だったのです。そこで白川公園エリアで開催され

 ているトリエンナーレ会場へは、若い人にご同伴願いました。正直に言ってそこでも制作者の意図を理解できた訳

 ではありませんでしたが、少しばかり楽しい気分が芽生えたことも事実でした。分からないなりに楽しんでしまおう、

 というような気持ちです。

  この芸術祭の監督をされた建畠哲(タカハタアキラ)さんも言っているように、「誰もが同じことを考え、同じ価値観

 を共有する社会は、効率的ではあるかもしれないが、そのような一元化は同時に他者を排除し、隔離して管理する

 ことをも意味しかねない」 という言葉を真摯に受けとめたいと思いました。

  そう言う目線で観れば、見慣れた都市の日常にアートの非日常的な光景が出現することもまたいいもので・・・・・

  想像力が刺激され、いつもの街角がより魅力的に感じている人もいるかもしれません。爽やかな秋空のもと、ま

 だ訪れていない会場に足を運ぶ日を楽しみにしています。

  愛知トリエンナーレは、10月31日まで開催されています。

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