そ よ 風 の 小 径

第22回  晩秋の出来事  (2009年 11月 23日)

  晩秋の朝、名古屋教室に向かうべく9時16分発の新幹線に乗り込みました。窓際の席に腰を下ろし手荷物を置

 こうとして、初めて忘れ物に気がつきました。

  今日の講座のメインテーマは褐色の美しさについて。その説明に必要な品物を詰めた紙袋を、待合室に置き忘

 れてしまったのです。

  豊橋駅にこだまは5分ほど停車しますので、もしかしたら間に合うかもしれないと思い、今降りてきた階段をダッシ

 ュで駆け上がりました。

  今朝は特別余裕を持って駅に到着したので、待合室でゆっくりしたのが反って災いしてしまったようです。

  それでも待合室に行けば少し大きめな紙袋は持ち主を待って

 いてくれるだろうと思ったのです。でも期待は外れて既に落とし

 物預かり所に回されているとのこと。

 「預かり所はどこですか?」 と聞くと、対応してくれた若い女性

 業務員の説明では、新幹線乗り場と逆方向だったので、ああ

 もう駄目だ、と観念したのでした。

  乗車を30分遅らせば忘れ物預かり所まで取りに行くことはで

 きるけれど、それでは水彩画教室に遅刻です。

  どちらを優先するべきかは明白でした。諦めて既にホームに到着して出発の時刻を待っているこだまに乗りこもうと

 したとき、階段を駆け下りてくる人の姿が目に止まりました。見れば先程の女性乗務員で、手には見覚えのある紙袋

 を掲げています。うれしさに声もうわずり

 「ありがとう!」 と受け取ろうとすると、 「その前にこの書類にサインが必要なのです!」

 と相手もうわずった返事。無理もありません。既に発車のベルが構内いっぱいに鳴り渡り、ドアは今しも閉められよう

 としているのですから。

  こんな時はいったいどうすればいいんでしょうね。結局手を伸べれば届く手荷物を私は受け取ることなくドアが閉め

 られ、おそらく汗びっしょりになってここまで来てくれた人の好意は、実りませんでした。せめてガラス窓のこちらから

 発したお礼の言葉は口の動きをたどることで相手に通じたでしょうか。

  水彩画教室のために準備した品物は間に合いませんでしたが、忙しい業務の中で親切な対応をしてくれた若い業

 務員さんの姿勢には、感銘しました。もっとも忘れ物をしたために相手にもっと忙しい思いをさせてしまった自分への

 反省も半端なものではありませんでしたが。

  で、その大切な紙袋の中身のことですが・・・・・。松ぼっくり、ヘクソカズラ、ドングリ、椎の実など絵を描く人ならでは

 の価値を持つ品々ではありました。
   

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