そ よ 風 の 小 径

第15回  藤棚の下で  (2009年 5月 6日)

  名古屋城の東、大津通に平行して名城公園内に続く藤棚の遊歩道は、この季節には是非訪れたいスポット

 です。今年も名古屋市内に出掛けたついでに、足を伸ばしてみました。

  お花見には絶好の陽気で日曜日だったこともあり、大勢の人で賑わっていました。

  500mにも及ぶ藤棚を行き終えたところは、広場になっていてフリスビーを楽しむ若者や、ボーイスカウトの

 一団が元気に汗を流しています。

  その広場の一角にある藤棚の下のベンチに腰を下ろし、藤の花や名古屋城を撮影するカメラマン、行き交う

 人々などをウォッチングしていました。静かなゆっくりとした時間が流れていたのですが、突然真白い毛糸玉が

 私をめがけて飛び込んできました。一瞬何が起きたんだ!と目を見張りましたが、それはいかにも愛らしい子

 犬でした。 「すみませーん」 と飼い主が走ってくるのが見えたので、 「どういたしまして」 と返しました。本当

 は抱きかかえて帰りたいくらいだったのですが。 

  私達の座っているベンチから少し離れた場所で

 地面にブルーシートを敷いて手作り弁当を広げて

 いる年配の親子と思われる方がいました。70代

 の母親にアラフォーの娘さん、といったところでし

 ょうか。親孝行しているんだな、という感じです。

  その隣のベンチでは読書に熱中している男性が

 一人。と思いきや、ポケットからスナック菓子の小

 袋を取り出して食べ始めました。 おやおや・・・。

 2009年4月最後の日曜日の正午近く、示し合わせたわけでもないのに、偶然同じ場所に導かれるように集

まった人たちが、同じ自然の恵みを共有して、明日への活力をもらってまたそれぞれの持ち場に帰っていく。

それもまた良し、などと思いつつ穏やかな時を過ごしていると、名古屋城を背景に藤の花を撮影していた初老

の男性が先程のお弁当を食べている親子の前にやおら歩み寄りました。

 「美しいですねぇ」

そんなふうに話かけています。その時の親子の表情はこちら側からは見えなかったのですが、おそらく見知ら

ぬ人から声をかけられ、すこし戸惑ったのかも知れません。やや間を置いてから

 「本当に藤は美しいですね。」 と応える声が聞こえてきました。すると間髪を入れずに男性が

 「いや、あなたが美しいと言ったのですよ。」 とにこやかに通り過ぎてゆきました。

 私達を含め、藤と名古屋城を写真に撮ろうとするカメラマンや散歩を楽しむ人達がかなりいましたが、共通の

笑みがこぼれたのでした。

 日本の男性もなかなかやるなあ、というのがその時の私の感想でした。
   

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名城公園、藤棚の下で