世の中に  絶えて桜の  なかりせば  春の心は  のどけからまし


 平安の歌人、在原業平の歌のごとく、この春も桜前線の行方に右往左往しながら

過ごしてしまいました。かつては、東北、北海道へと桜を追った旅もしました。

 今年は初めてお隣の県、静岡の川根本町家山の桜を見てきました。静岡県の中

でも、有名な桜の名所ですが、出かける前日に強風が吹いた後だけに、相当なダ

メージを覚悟していました。

 ところがどうして、桜は何事もなかったかのように、爽やかに迎えてくれました。

 マネージャー(夫)が現役の時、この川根本町で仕事をしていて、家山の桜を記憶

していたのでした。大井川と並行して走る国道473号線に「桜のトンネル」と称され

る箇所がありました。そこの桜も見事でしたが、私の心に残ったのはその後でした。

  風 誘 讃 花    


      第 2 8 回   桜 余 話   (2017年5月1日)   

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  旅の最終目的地、夫の造った大井川鉄道レインボーブリッジのある接阻峡を目指し、北上して行きました。風景の中の桜は染井吉野

 がほとんどで、白に近い彩りの中に控えめな桃色が添えられている。それが大きな固まりであるために、なんとか桃色であることが認識

 されるというのが、絵を描く者がとらえた桜色であるわけです。そういう車窓から見える沿道の風景に慣れた視界に突然、その印象的な

 桜は出現したのでした。

  走っている車道から数メートル離れた民家の周囲に3本の桜の大木があったのです。ホルベインの水彩絵の具で言うなら、パーマネ

 ントローズ。鮮やかなバラを描く時に使うピンクを帯びた赤です。その色を散りばめたような3本の桜が家の周囲を取り囲んでいる、とい

 う光景を想像してみて下さい。 「 うわっ!!」とびっくりしている間に、車はその家の前を通り過ぎてしまいました。

  幸い帰路で再び同じ景色を目にすることができた時は、ただ感動です。いったいどんな人がこの家には住んでいるのだろう、という

 想像から始まって、あの艶やかな桜は何という種類なのだろうか、とかを思い巡らす豊かなひとときが与えられたのでした。

  今度家山に行く機会があれば、あの民家の前で一時停止して写真に収めてこようかな、と思いながら今年の花見は終わりました。

4月12日、静岡県川根本町家山にて