風 誘 讃 花    


    第 12 回  ヒ ナ、あ り が と う   
                                           (2016年1月1日)   

   昨年の12月始め、私の手元から天使が飛び去りました。

   17年間、ともに過ごした小鳥(ヒナという名のインコ)でした。今思えば、驚くほどの長生きでした。

   もっとも数年前から老いを感じさせる振る舞いが目立ってきて、いつか旅立つときが来ることは、予感していたのですが・・・

  まず片足が不自由になり、それは人間のそれと同じような経緯をたどって進行していきました。

   自分と照らし合わせて、なんだか身につまされるような気がする出来事ではありました。朝ごとに夕ごとに、出来るだけの

  気持ちを込めて 「 ありがとう 」 と声を掛け続けたのは、手のひらにのるほどの小さな存在にどれだけ慰めを得たか知

  れなかったからなのです。

   住人のいなくなった鳥かごは、すぐに片付けました。思い出すのが辛かったからですが、ほどなく知ったのは、その小鳥は

  私の中で生き続けているということでした。そう、これがその小鳥なのです。

   旅立つ前日までいつもと変わらぬ元気な仕草をしていたので、突然の別離に大きなショックを受けました。半年ほど前に

  「 うちのインコ 」と題してこのコーナーへのエッセイを書きましたが、編集長に没にされました。今回その小文を掲載します。


  黄色いインコを飼っています。生まれて数日の雛を買ってきたのは17年前のこと。手乗りにしたかったのですが、巧く躾け

 ることができなくて、肩乗りインコに収まりました。これまでも小鳥は数多く飼って来た経験があるので、それぞれの小鳥との

 楽しい思いでも数えればたくさんあります。でも、今飼っているインコほど長く生活を共にした例はありません。実に17才とい

 う齢を越えて彼は { 彼女かな?}なお健やかに暮らしているのであります。

  以前は鳥籠から出て自由に部屋の中を散策するのを、日課にしていたものでしたが、その頃から私の画材である花に興味

 を抱き、しきりに啄む仕草を見せていました。花好きはどうやら飼い主に似たようです。

  老齢の今、籠から出ることもなくなり、止まり木の上で眠っている時間が多くなりました。その止まり木から着地するのに失

 敗して片足が不自由になってからは、 { 老けたかな・・・} と感じることもあって、我が身と照らし合わせて { 老いとはこういう

 ものなのかな } などとしみじみしたりもしています。

  いずれにしても、子供たちが成長して巣立っていった姿を見てきた同志でありますから、愛おしさもひとしおです。この子と

 あとどれだけ一緒に過ごすことが出来るのでしょうか。

  見ているだけで、言葉では言い表せないような平和な空気感に包まれる、そんなひとときをどうか長く長く続けることが、

 できますように。( 記:2015年7月 )

  この辛い別離の悲しみが少しも弱まることのない日が5日続いた我が家に、新たな出会いの連絡が入りました。

  名古屋市に嫁いだ長女に初めての子供(女の子)が誕生したという知らせです。長女もこのインコをとても可愛がって

 いたので、臨月の彼女に精神的なダメージを与えたくなく、インコが死んだことは伏せておきました。

  この世を去る生命、新たに誕生する生命、身じろぎもせず流れる時の中で、別離と出会いは繰り返されていくのです。

風誘讃花へ
そよ風の小径一覧
そよ風の小径パート2一覧
トップページへ戻る