子供の頃、チューリップ畑に出かけると、つい可愛い女の子が座っているのではないかと期待して、花のひとつひとつを
覗いてみたものでした。期待に反してそこにいるのは、毛むくじゃらの蜂やハナムグリでしたけれど、アンデルセンのお話
からどれほど想像力を養わせてもらったことでしょうか。
アンデルセンのお話は、いわゆる修業小説のようなものが少なくありません。その中で主人公は多くの障害にぶつかり
それをひとつひとつ乗り越えていくうちに成長し、幸せをつかむのです。
そういう視点からすると、{醜いアヒルの子}は大きく成長する典型です。まわりからいろいろと誤解されて迫害も受けな
がら、じっと耐えて忍び、気がついたときには、白鳥本来の姿になっているというハッピーエンド。
なかには {人魚姫} や {マッチ売りの少女} のように、美しくも哀しいお話しもあるけれど、どの物語も暖かい読後感を
残してくれるのは、アンデルセンがそういう人生を生きた人だったからかも知れません。
おやゆび姫もまた、さまざまな運命に翻弄されてゆきます。最初はおどおどと、ときには泣くすべしか持ち合わせずに、
ヒキガエルに拉致されたり、コガネムシから嘲笑されたり、とさんざんな目に合いながらも、救いの手を差し伸べてくれる
魚や野ねずみのおばさんと出会ったりして、自分もまた行き倒れているツバメを助けてあげます。
そうこうするうち、もっぱら受け身だったおやゆび姫の中に、自分の意志で行動するという心が育ち、やがて幸せをつか
むわけですが、そのくだりを知りたい方は、改めてアンデルセン童話の中にある {おやゆび姫} をお読み下さいね。
風 誘 讃 花
第1回 チューリップにまつわるアンデルセンのお話 (2015年2月1日)
昔、 あるところに、子供のいない奥さんがいました。その人は、子供が欲しくて欲しくてたまりません。
とうとう魔法使いのおばあさんのところへ行って、どうしても赤ちゃんが欲しいのですと頼みました。
「ああ、いいとも」 おばあさんはそう言って、一粒の種をくれました。
「ただの種ではないんだよ。さあ帰って鉢にまいてごらん」 奥さんは喜んでうちに帰りました。
そして鉢に種をまき、水をやって、毎日芽が出るのを待っていました。
やがて芽が出ました。どんどん伸びてとうとう美しいつぼみをつけました。それはまるで、チューリップそっくりでした。
「まあ、きれいだこと」 奥さんは思わず言って、花びらにそっとキスしました。と、みるみるつぼみは、音をたてて
開きました。それだけなら何でもないのですが、驚いたことに、花の真ん中に、ちっちゃな女の子が座っていました。
ここまで読まれて、「あ、これはアンデルセンの おやゆび姫 でしょう」 と気づかれた方は沢山いらっしゃること
と思います。チューリップからおやゆび姫を連想するのは、子供に限ったことではないですね。