そ よ 風 の 小 径  パート2

第 47 回  桔  梗 (2014年 10月 1日)

     初秋の風に小さくゆれる青紫の花、桔梗は日本人の心に馴染み深い野の花です。

      秋の野に  咲きたる花を指折りて  かき数うれば七種の花

    と万葉集にあるのは

      萩の花  尾花  葛花  ナデシコの花  女郎花  また藤袴  朝顔の花  (山上憶良) 

   のことなのですが、その中のアサガオとあるのは桔梗の古い呼び名という説があります。実は万葉集で山上憶良が詠んだ

   時代に現在の朝顔はまだ日本に渡来していなかったので、歌の最後に登場する朝顔が桔梗であると言われているのです。

  先端が五裂の紫、または白、紅紫色の鐘状型の花をつけ、根は古く

 から漢方薬として利用されたということです。喉の痛みを取り、また去痰

 剤としての役目もあるといわれます。

  すっきりした形が図案化するのに重宝だったこともあり、紋章として広く

 知られるのは、土岐氏一族、加藤清正や明智光秀の旗印です。本能寺

 で光秀が織田信長を討った際にも、束の間とは言え天下を握ったこの

 武将を讃えたのは、鮮やかな水色桔梗紋の旗であったことを想像する

 と、歴史のなかで煌めいたこの花への敬慕の念さえ抱くのです。

  もっとも本来桔梗は古来日本の山野に咲いていた花ですから、日常

 生活でも親しまれていた筈で、手ぬぐいやのれん、着物の図案としても

 よく見かけます。

  今回、9月の水彩画教室のお手本として取り組んでみて再認識したことは、なんとも潔い形状をしているということでした。

  花は星型の感じで描けますし、葉は周囲のギザギザに注意すれば、ごくシンプルで典型的な葉型です。これに秋風を刷い

 てあげれば描けそうだぞ、とイメージをふくらませながら実のところ苦労しています。

  あまりにも潔く隙のない花に対して、風船のようにふくらんだ莟は愛らしくほっとさせられます。英名ではバルーンフラワー

 という呼び名があるというのもうなずけます。ちなみにまたの名を、ジャパニーズ ベルフラワーともいうとのことです。

  莟は初めのうちは花びらが癒着してふくらんでいるのです。江戸の俳人、加賀千代女の詠んだ句に

    桔梗の花  咲く時ぽんと  言ひそうな  

 というのがあったと記憶しているのですが、ついふくらんだ莟を指で押さえてみたくなる誘惑にかられるのは私だけでしょうか。

  ものの本によると事実、莟のなかには空気が入っているので要領よく押せば、ポンと破裂音がする、と書かれています。そ

 んな気持ちを察したものかどうか、ある朝鉢植えの桔梗が目の前でパッと開いたことがありました。つままれたりしたらかな

 わん、とでも思ったのでしょうか。自主的にポンという感じでひらいたのですけれど、どう振り返ってもその時音はしなかった

 というのが私の感想です。

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