そ よ 風 の 小 径  パート2

第25回  万願寺とうがらし  (2012年 12月 1日)

     定年退職後の夫が、ベランダの植物の手入れを担当するようになりました。もともと花が好きだったし、会社勤めで

    培ってきた計画的な仕事の姿勢が、ベランダ栽培にも活かされているものと見え、狭い空間がこんなに豊に変身する

    ものなのかと感心しています。

     今まで絵を描くために鉢植えで買い込んできては枯らしてしまっていた花たちが、次の年も、また次の年にも綺麗に

    咲くのを見ては  「なんと素敵なこと!」  と感激するとともに、ちょっぴり自分のずぼらさを反省したりもしています。

  ところでこの夏、夫がスーパーの特売所で小さなとうがらしの苗を

 一本買ってきました。京野菜の万願寺という名前がついています。

 大阪で仕事をしていた時に、馴染みの飲み屋さんでよく出された食

 材だったということでした。懐かしさもあって育ててみる気になった

 ようです。10センチ足らずの苗だったのが、あれよあれよという間

 に何倍にも成長し、次から次へと実を結び夕暮れには台所のカウ

 ンターの上に10個、20個と並ぶ日が増えました。果肉はピーマン

 のように厚くて柔らかく、甘みもあって美味しいのです。

  最初のうちこそ大歓迎で炒めたり、天ぷらにしたりしてみたの

 ですが、さすがに飽きる時が来るものです。秋口に入ると少し固さ

 が気になり始め、食卓に乗る回数も減り始めました。

   それでも青緑色の美しい形が気になっていたので、いつでも目につく場所に並べておいていたら、金木犀が香る頃に

  こちらのほうも綺麗に色づき始めました。

   その色は、今までの青緑から少し黄を含んだサップグリーンへと、中には更に進んだカドミウムイエローへと変身し、

  早くも全体が夕焼け色のカドミウムレッドに染まったやからもあって、  「描いてみる?」  と誘ってくるのです。

   そういえば昨日まで描いていた金木犀に使ったのと同じ色で描けることに気がつきました。カドミウムイエローデイブ

  とサップグリーン、ほんの少しのバーミリオンにクリムソンレーキは、まだ洗い流すことなく、絵の具皿に置いたままでし

  た。お出かけ前の午前のひととき、気持ちのいい絵が完成しました。

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