そ よ 風 の 小 径  パート2

第21回  花からのお誘い  (2012年 8月 1日)

     これは花の水彩画教室に来ている生徒さんから伺ったお話です。

     彼女は以前、百合の花の高貴な姿に魅せられて、なんとかその姿を絵に留めたくてスケッチに励んだそうです。

     結局思いを遂げることができないまま年月を重ね、今に至ったということでした。

     若かりし日に果たせないまま過ぎていったことにもう一度挑戦したくて、また絵筆を執る気持ちになったんですよ

    と、照れ笑いしながら話してくれました。

     この教室にそんな思いを抱いて入会して下さったことに感激しながらも、実は私も描きたい花を日々追い掛けな

    がら、未だに思いの半分も描けていないのですと、告白すべきか迷いました。

     「 花を描く水彩画教室 」 と銘打ってから、どれだけの年月が過ぎたでしょう。もともと花が好きで、いつも花が

    身近にあるという生活の延長線上に、今の暮らしがあるわけですから、こんなに幸せなことはないと思うのですが、

    その花に対する思い入れが深まれば深まるほど、「全然違う!この花の美しさはこんなものじゃない!」と忸怩た

    る思いに苛まれるのです。

   そんなときはひたすら花と対峙して、デッサンを繰り返しますが、それでも

  思ったように筆が運ばず、疲れて一休みしているときなど、今までモデルと

  いう目で見ていた花がほほ笑んでいることに気がつきます。そう、花はいつ

  も笑顔なのです。だから花をもらった人は、一様に笑顔になるのでしょう。

   こんな私ですが、ごく稀に花のほうから、

  「私を描いてごらんなさい」

  と誘ってくることがあるのです。そのときだけはスラスラと筆が運び、自分

  でも 「うん、これはいいぞ」 と納得のゆく絵が完成するのです。

   もっともこれは今までの人生でも、限られるほどのことであって、ここ数

  年はすっかりご無沙汰です。

      人にそれぞれの性格があるのと同じように、花もまたさまざまな個性を主張してきます。その一番いいところを

     すくい上げて描こうとするのですから、難しくないわけがありません。

      また、花のほうから誘ってくれる時がいつ訪れるかわかりませんが、少しでも花の気持ちに添って、描いてゆこ

     うと願う日々であります。

そよ風の小径へ
トップページへ戻る
新エッセイの部屋一覧へ
そよ風の小径一覧へ