そ よ 風 の 小 径  パート2

第14回  ア ト リ エ 内 輪 話  (2012年 1月 1日)

   新年のご挨拶の中でも触れましたが、そよ風のアトリエも今年で10年目となりました。最近は毎月一日に更新という

  約束を果たすべく、月末は慌ただしい日々を過ごしています。それに加え今回は、年末ということもありましたが、何と

  か乗り越えて新年を迎えることができました。

   我が家の場合、子供がそれぞれ独立し、昨年は結婚以来38年振りに夫婦水入らずの生活が始まりました。とはいっ

  ても3人の子の親であることには変わりはなく、しばしば孫たちの面倒を見るという役目も加わって、それはそれで忙し

  くしています。

   ところで、ここ数年の間に還暦を迎えた皆様、どのように新しい生活をお過ごしでしょうか。団塊の世代と呼ばれて、

  それなりの時代の担い手として、今までの人生を歩んできた同世代の暮らしを知りたいという思いが、ふつふつと沸き

  始めました。と言うのも、若い頃には想像だにしなかった定年後の暮らしというものが、実際に暮らし始めてみると大変

  良いことに気がついたのです。それどころか人生で最高の時を迎えているといってもいいのです。そうなると若い輩に

  対しては、先輩面をして 「歳を取ることも悪くないよ」などと言ってみたくなるものですね。(苦笑)

   勿論、歳を取ると言うことは、身体の衰えを日々受け入れることでもあり、若い頃のような活動を続けるわけにはい

  かず、それなりの知恵と工夫が要ることを前提にしての話になるわけですが・・・・。まあ、聞いて下さい。

  私が生まれた昭和24年前後といえば、戦後ようやく復興の

 兆しが見えてきた頃でした。日本はまだ貧しくて田舎では男尊

 女卑の文化が健在でした。どうしても自立したいという願いを

 抱いて上京したものの、あっけなくノックアウトダウンした青春

 でした。でもこの人と暮らしたら幸せだろうと思える人に出会い

 結婚したのも青春のまっただ中だったのです。上京した時とは

 正反対の選択をしたわけですが、結婚生活を始めてみて分か

 ったことは、伴侶と共に暮らす時間など、そう多くはないという

  ことでした。企業戦士として働く夫の生活は多忙を極め、それに加えて転勤、単身赴任となると、こちらは家庭を守る

  ことに精一杯で、どうも理想としていた結婚生活とは程遠い暮らしを選択せざるを得ませんでした。

   その頃流行った言葉に 「亭主元気で留守がいい」というのがありました。そう言われてみれば、留守がちな暮らし

  に乗じて私も創作活動を再開していたので、それもそうだと、思い直し、夫が元気に働いてくれることに感謝こそすれ

  ずっと一緒にいたいという願いは、どこか遥か彼方へ行ってしまったのでした。

   そんな風向きが少し変わったかな、と感じたのはお互い50代を過ぎて定年という言葉が現実味を帯びてきた頃で

  しょうか。忙しい仕事に携わりながらも家族のことを良く気遣ってくれる夫の視線が、その頃になるとより多く感じられ

  るようになってきたのでした。聞くところによると、会社で定年退職を控える人のためのセミナーなどが企画されたよ

  うで、留守がちだった家庭に入るための心得などが語られたそうです。そう言えば「濡れ落ち葉」などという気の毒な

  言葉がささやかれたのも、この頃でしょうか。 

   今まで会社で全力を尽くして働くことが良しとされていたのが、定年退職を区切りにして全く違う生活に入るわけで

  男性も大変ですよね。セミナーで得たものがあってか、夫はいい感じで家庭に入ることができたばかりか、創作活動

  をしている私のパートナーとして、全面協力を買って出てくれたのです。

   そのひとつの具体例ですが、昨年は山の奥まで出掛けてスケッチをする機会に恵まれました。今まで、家族で山歩

  きをした時など、山藤や葛などが見栄え良く自生している姿を見ては、こういう絵を描けたらいいな・・と思ったもので

  した。でもじっくり観察するには時間が足りなくて消化不良が続いていたのです。それが夫の定年退職と共に実現し

  ました。私がスケッチをしている傍らでゆっくり読書などしている夫の姿を想像して下さい。ささやかながら豊で幸せ

  なひとときです。

   今にして思えば結婚した時からずっとこういう生活を夢見ていたのです。現実はなかなかそうはいきませんでした

  が、還暦を過ぎてから夢を実現することができました。でも、という不安がよぎることがあります。それは健康です。

  誰もが避けて通れない道程ではありますけれど、与えられてしまった病はそのまま受け入れて、二人三脚の歩みを

  許される日まで大切に生きていこうね、などと話してはほほ笑みあっています。

   あら、御免なさい。お屠蘇の量が多すぎたかも知れませんね。つい雄弁になりすぎたので、この辺でお開きと致し

  ましょう。

   そよ風のアトリエは、今年も私が描いた絵と文章をマネージャーである夫が編集して皆様にお届け致します。どう

  か、月の初めには楽しみにページを開いていただきますように。本年もよろしくお願い致します。

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