エッセイの部屋 (2004年6月)
第21回・・・ (5月の風、そして藤 )
薫風・・・広辞苑では「南風、温和な風、青葉の香を吹き送る初夏の風」という説明文が添えられています。 三省堂、新歳時記によると「南風が緑の草木を渡って、すがすがしく吹いてくるのを讃えた言葉で、青嵐よりも 弱く、感じも柔らかである」とあります。 美しい日本語の中でもとりわけ愛用したいこの薫風という言葉ですが、この風が頬を通りすぎたとき、ふと目 をやればその先に藤が揺れている・・・。私の連想ゲームはそんなふうに広がってゆくのです。 この風が吹き抜ける深緑の頃は、青や白い色をした花が主流になることも素敵です。自然界の配慮とでも 言いましょうか。緑を愛でるのにふさわしい花の色が添えられて、惜しみなくこの季節を楽しみなさいと言って くれているかのようです。
ただし、あたかもこの季節を狙い撃ちするかのように襲ってくる強風の多いことも事実で、今年もまたあっ と言う間に藤は散ってしまいました。 昨日まで我が世の春とばかりに咲き誇っていた芳しい花の、春嵐が過ぎ去った後の見るも無残な姿に ため息をついてしまいました。でも藤のスケッチに出掛けたときの指はまだその感動を覚えていてくれたよ うです。そしてその時のスケッチにも助けられながら、今少しばかり季節はずれの花の絵にチャレンジして います。勿論、深い緑の葉陰で紫陽花が色づき始めたことにも気が付いてはいるのですが・・・・。 もうしばらくは藤と付き合いたい私です。
(スケッチ絵)