エッセイの部屋  (2003年11月)

第14回・・・雑木林での出会い

 毎年この季節になると夫と二人で訪れる場所があります。

豊橋駅から車で20分程行った郊外の雑木林。由緒ありそうなお寺の脇道をずっとさかのぼれば

自然とそこに行き着くのですが、何年も通ってまだ私達以外の人と出会うのはごくまれです。

  美男葛、山帰来、冬苺、野アザミ・・・この林で出会うことができる様々な木の実、草花はそのまま

私の画材となって作品に登場します。

 でも一つだけ存在は分かっていても、実際に咲いている姿にお目にかかれないでいた花がありま

した。高砂百合,、その花でした。

 私達が頻繁に訪れるのは春と秋の限られた時期です。夏の盛りに花開くユリの季節は暑くてとて

も山歩きなどしていられません。というのがこちらの言い分なのですが、おそらくは誰も訪ねることの

ない林の中で、勢いよく茂った夏草に包み込まれるようにしてそっと咲いては散っているのでしょう。

 木の実が色づく頃に訪れて知るのは、青緑の棒キャンディーのようなユーモラスな形をした実があ

ちこちに点在していることで、ああ、この場所は一時ユリの園であったことだろうなぁ・・ということです。

 深く青い夏空の下に咲く白ユリ、美しいだろうなぁ、と想像しただけでため息が出ます。草いきれを

押し分けてでも一度は見てみたいと思いつつ、今年も果たせなかった。そんな気持ちを抱えて歩い

ていたら、思いがけず見つけてしまいました。伸び放題に伸びたススキの間から、ちょっと恥ずかし

そうに咲いている一輪のユリの花。

 「遅ればせながら、咲かせてもらいました。」 と言いたげな風情は、のろまな自分を自嘲している

かのようでもあり、微笑みを誘います。

 いえ、もしかしたら私達の訪れを待っていてくれたのかもしれませんね。

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