新エッセイの部屋

 第 32 回  忘れな草(勿忘草) ( H20年4月27日 )

  《今回のお話をする前に前書きを》

   忘れな草のことについてコメントしようと思い「勿忘草」(正しい漢字です)と記したところ、それを目にした人から

  「ものわすれぐさってどんな花?」と問われ、一瞬思考が止まりました。確かに「勿」はものと読まれても不思議で

  はなく、「忘」があとに来ていますので「ものわすれぐさ」も仕方がなかったと思います。でも「わすれなぐさ」という

  この花に相応しい可憐な名前と百八十度も違うと思える読み方をされるのは困りますので、あえて「忘れな草」と

  記させていただきました。

  今年手に入れた忘れな草の鉢は、身の丈60センチ

 もあるほどの元気さで、自由奔放に空に向かって花を

 咲かせ続けています。

  こちらも伸びやかな気持ちで描いていたら、水彩画

 教室のお手本にしてもいいような作品が何枚か出来

 上がりました。

  それで4月半ばの名古屋教室でのお手本にと忘れ

 な草の花と絵を携えて出掛けました。

  いつものように皆さんの輪に囲まれて、使う絵の具の

 説明などしながら花の絵を描いていたら、ふと忘れな草

 にまつわる物語を思い出しました。

  流れのほとりに見つけた愛らしい花を欲しいと願った若き恋人達のお話。  

  あれはドイツに伝わる物語だったかしら。

  ルドルフはベルタの願いを叶えてあげたくて危険を顧みずに崖の先に咲く花に手を伸ばします。

 「もう少しだよ、ベルタ。ほら、届いた!」

  恋人の喜ぶ顔が見たくて顔を上げた途端、ルドルフの身体は急流に呑み込まれてしまいますが。もがいても

 どうすることもできない川の流れでした。

  「ぼくを忘れないで、お願いだよ、ベルタ」

  その一言を最後に、ルドルフは激しい流れの底に消えました。

   うろ覚えの話がつい口に出て、最後までそんな物語を語り伝えてしまいましたけれど、思わず目頭が熱く

  なって、絵を描く手元がぼやけました。

   これも明るい空の色のように青い色を湛えた忘れな草のなせる業でしょうか。

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