エッセイ 第6回 (2002.11)・・・秋明菊

 10月の終わり頃、京の洛北へ小さな旅をしました。

週末の京都はすでに紅葉が始まっていて、ほんのり色付き始めた木の葉が爽やかでした。次週

ぐらいからこの場所は観光客で溢れかえるという、ガイドさんの話を聞き、紅葉狩りには少しぐらい

早くてもゆったり散策できて良かったと思いました。

 訪ねる場所によっては修学旅行以来というところもあって、長い時間の流れを経て、同じ場所に

立っている感慨と不思議感を味わったりもしました。

 一ヶ月ほど過ぎた今、その時のスナップ写真を繰りながら、さて一番印象に残った場所はどこだっ

たかしらと思いめぐらしてみたら、そこは名所とはほど遠い住宅街の一隅でした。有名な寺院に続く

細道は急勾配が多く、それでもかなり高齢の方々が杖をつきつき一生懸命に歩いているので、私

達もゆっくりと歩調を合わせて目的地に向かっていました。その時、ふと目にしたのが秋明菊の群

生でした。

  それは住宅と地続きになった野菜畑とも花畑ともいえるような、なんてことのない空間で、丈の

低い木が4〜5本植わっていて、その下にわっと咲いた秋明菊が気持ちよさそうに風と戯れていま

した。少し上気した頬に同じ風を感じながら、私達はしばらくその場所に佇んだのでした。旅の終わ

りが近づいたことを感じながら、いつかまたここに来ようと思ったものです。

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