新エッセイの部屋

 第 18 回(H 18 年 12 月)  夕焼け色 

  「最近、夕焼けを見たことがありますか?」

 そんな質問を水彩画講座の中でしてみました。

  花を描くことに余念がない人たち、きっと日頃から自宅の庭に椅子を出して、花のスケッチにいそしんでいることでしょう。

 でも、その上に広がる空の色に思いを馳せたこと、あるかしら?まして夕食の準備に取りかかる頃に広がる夕焼け空を見

 上げるゆとりを持っているかしら。そんなことも問いかけたくて投げた質問に、即座に 「ある!」 と応えてくれた生徒さんも

 いました。   

  その返答の表現をつまびらかに思い出すことはできませんが、

 確かに夕焼けが始まった空に向かってまとまった時間を費やし

 たことが想像できる内容でした。そこで

 「では、次回の水彩画講座には夕焼けはどんな色で表すことが

 できるかというのをやりますから、それぞれ皆さんスケッチブッ

 クに描いてきてくださいね。」

 「えー!!!」 そんな殺生な!という言葉が続きそうな{えー}

 という感嘆符?に、にっこり微笑みで応えたのでした。

  もし自分が宿題を出される立場だったらどうだったでしょう。それはとても難しい課題だったから、最初から諦めていたか

 もしれません。でも、勿論意地悪でそんな宿題を出したわけではないのです。

  自然界の色、それはとてつもなく美しくて、私たちの心を豊かなものにしてくれる。花の絵を描くことを、目的としている我

 が水彩画教室では勿論、季節の花の恩恵を受けて創作を続けているわけですが、そうした恵を植物から更に、それを取り

 巻く空の色、風の色、木々の色、水の色といったふうに広げていったらどうかしら、そんな思いが広がって、まずは夕焼け

 の色を絵を描く者の眼で探ってみることを提案したのでした。

  この宿題を出したのは実は、発足して三年半ほどになる「花を描く水彩画」教室のメンバーに対してでした。宿題なんて

 本来あんまり気持ちの良いものではありません。私だって宿題好きではありませんでしたから、今までに11年に及ぶ水

 彩画講師の歩みの中で多分、初めてのことだったと思います。でも、今回こういう試みをしてみるのがこの教室で良いこと

 につながるような手応えを感じたのです。果たしてどんな受け止め方をしてくれたのだろう、と楽しみにしながら、夕暮れが

 近づくとベランダに出ては暮れなずむ陽の彩りを眼で追ったのでした。

  朝焼けとか夕焼け、一番星などそれぞれに心惹かれる空のアートだと思うのですが白い紙の上に水彩絵の具で表現

 するとなると、これは難しいものがあります。なぜならそこには光が存在するからです。

  影絵のような表現方法だったら素晴らしい効果が期待できるテーマですが、私たちが表現できるのは2次元の世界

 です。どうしても色を選択するしかありません。既に多くの色を使いこなすことに慣れた水彩画教室のメンバーが果たし

 てどの色を巧く使って課題に取り組んでくるのでしょうか。楽しみに待つことにしました。

  ちなみに私が愛用している水彩画用の色づくり実用書には、ジョーンブリヤンNo2が夕焼けに使用されていました。

 一般的に肌色として知られている暖かみのある半透明色です。勿論その周囲に赤や青や群青を添えることで、それぞ

 れの夕焼けを表すことができるでしょう。

  さて当日です。いつになくソワソワしている生徒さんも見受けられます。「宿題をしてこなかった人は廊下に立っていな

 さい。なんて言われたら困っちゃう」 などと言っている方もいました。

  私としては宿題の提出を求める気は毛頭ありませんでした。一人一人がそれぞれに夕焼けの色は何色?という問い

 かけを心に留めて幾度か空を見上げただろうことは、想像に難くありませんでしたからそれで充分なのでした。

  でも、宿題の絵をきちんと提出した人もいました。自宅の庭から見える夕焼けの色をジョーンブリヤンとペインズグレイ

 で見事に仕上げた2枚、その出来栄えとともに期日を守ったことを含め、点数を付けるなら満点です。

  そのほか、表だっては提出されませんでしたが、「実は私も描いてきました。」 と言って何人かの人が、他の人に見ら

 れたくないなあ、という感じでおそるおそるその人なりの夕焼けを見せてくれました。

  難しい課題に対して宿題という言葉は不適切だったかな、と反省しました。立場が逆であったなら私も率先して見せら

 れる自信は無かったでしょう。これからは提案という言葉に換えて、できる人は取り組んでみて下さい、そして見せて下

 さいね、と言うようにしようと思いました。

 

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