新エッセイの部屋

 第 12 回(H18.3) 春のベランダ 

  啓蟄を過ぎた頃から、我が家のベランダがなにやら賑やかになってきました。広からぬベランダスペースの3分の1程は、

 大小 併せて30個ほどの鉢が占領しています。その鉢には、私の大切な絵のモデルになってくれる花たちが住んでいます。

  もう何年もベランダの住人をしている花の中には、ただ今冬眠中のものもいます。冬眠したままいつの間にか土に戻って

 いる花もあるのですが、幾つかは季節の気配を感じて敏感に動き始めます。    

たとえば、昨日まで枯れ枝としか見えなかった紫陽花や限

りなく野バラに近い種類の「バレリーナ」など。

枝の先に柔らかな若芽が芽吹いてきたら、一回り大きな鉢

に植え替えるのが私の仕事です。あとは{今年も綺麗な花を

咲かせてね}と念じながら水やりをします。

 紫露草やどくだみも我が家の住人になって久しいです。で

きればタンポポやすみれにも居着いて欲しいのですが、プラ

ンターで育てるのは難しいですね。

 住人といえば、これは植物ではないのですが、黄色い花び

らのようなインコが一羽いまして、飼い始めて9年余りが経ち

 ました。小鳥で9歳といったら人に置き換えると何歳になるのでしょうか。冬の間元気がなくて、もう歳なのかもしれないと、

 離別が近いことを予感して寂しい思いをしましたけれど、ベランダの植物が活動を始めた頃から、俄然元気を取り戻して

 きました。朝毎に好物の花びらを欲しがって催促してくるのです。「ピョロ、ピョロ、ピーヨ!」と。今はパンジーの花びらが

 お気に入りの様子です。

 そういえば私もこのところ元気です。植物も鳥も人間も、春はエネルギーが溢れる季節なのでしょうか?

                           「スカビオーサ」

 この花の色の多様さには驚いてしまいます。一束買い求めたものを持ち帰り、大きめの花瓶にストンとほうり込んで自然に

落ち着くのを待ちます。このごろはブルーレースフラワーと一緒に活けるのが気に入っています。どちらもスーと伸びた茎、

その先端に繊細な美しい色の花が広がります。

 最初に色の多様さ、と言いましたけれど、スカビオーサをご存じない人のために説明しますと、マリーローランサンの絵の

具箱をひっくり返したような、ということになるでしょうか。紫を中心にして、赤紫、青紫、そして黒を帯びた紫など・・・。その中

にほんのりと桃色を帯びた白い花が交ざっているのがたまらなく良いのです。惜しむらくは日持ちがしないということです。

 買い求めて3日もすると早いのはもう痛み始めてきます。絵のモデルになってもらうには、最低一週間は欲しいのですが、

いくら水を換えたり茎を切り詰めていっても巧くいきません。一緒に買い求めたブルーレースフラワーのほうは、3週間は

優に持つのですが。このスカビオーサ、ヨーロッパでは17世紀の初頭から広く園芸種として栽培されていたそうです。別名

セイヨウマツムシソウと言い、秋の野山を紫色に彩る日本原産のマツムシソウも同属だということです。

 スカビオーサを描くときのパレットは思いっきり美しい色で埋まります。
  

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